変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)

  • 光文社 (2007年9月6日発売)
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カフカさんというとても有名な人のいちばん有名な小説ですね。
カフカさんとかカミュさんとか、この辺の方々は、読むべき高校生~大学生時代になんとなく敬遠してしまって読んでいませんでした。
最近なんとなく、こういうものを読んでみたいなあ、という気持ちが出てきました。
光文社古典新訳文庫さん、という存在も大きいです。
とにかく、「無駄に日本語がムツカシクなっていない」という信頼を持てるだけでも嬉しいですね。パチパチ。

カフカさんってチェコスロバキアの人だったんですね。民族的にはユダヤ人さん。ドイツで勉強したり働いたりしてたみたいですが。
プラハ生まれだそうです。1883-1924。40歳で亡くなっています。
アドルフ・ヒットラーさんより、6歳年上になります。
ちなみに第一次世界大戦が1914-1918ですね。
1923年が、ヒットラーさんが政権を握ろうとクーデターを起こして失敗したミュンヘン一揆。
カフカさんが死んだ1924年は、ヒットラーさんは獄中で(と言っても特別待遇だったそうですが)「我が闘争」を口述筆記中だったそうですね。

裁判所の下っ端。保険会社の外交、つまりセールスマン。労働者保険組合での事務、つまり団体職員。
そういった仕事をしながらの、兼業作家さんだったそうです。
つまり、生前はさほど有名ではなかった。っていうことです。

死んでから、マックス・ブロートという名前のお友達が、遺稿を整理して、未発表だった長編を出版。
おまけに、ブロートさんなりにラストを書いちゃったりあちこち変更したりしたそうです。
そして、ユダヤ教なりキリスト教との絡みの作家であるという視点から営業したそうです。
そしたら、売れちゃったそうですね。1930年代くらいから、ドイツやフランスで名声が高まったそうです。
ちなみに1933年にはヒットラー内閣が誕生しています。
そう考えると、1930年代っていうのも尽きせぬ興味ですね。

1970年代くらいになって、
「俺たちが読んでるカフカは、どうやらブロートが手を加えちゃってるものらしいぞ」
ということが研究界でも分かってきたそうです。なんで、最近はやっと、直筆原稿に基づく本が出て、その日本語訳も出てきてるそう。
この光文社古典新訳文庫版は、そういった直筆版だそうですね。

この文庫本には「判決」「変身」「アカデミーで報告する」「掟の前で」の四編が入ってます。
まあ、圧巻なのは「変身」ですね。
グレーゴル・ザムザ。しがないセールスマン。朝おきたら虫になってますねえ。すごいですねえ。強烈です。
大まかに言うと、家族が困ってしまって。泣き暮らして。徐々に阻害されて。という話なんですね。
解説にも書いてますけど、どうにかこうにか「隠された本意」を探して解釈したくなる小説ですね。
でも、そんなことよりとにかく面白い。オモシロイ。ちょっと怖いし気持ち悪いですけど。
でも怖いのは、虫だからじゃないんだな、って思いました。それに反応するヒトの心が怖いんですねえ。

面白いのは、カフカさんは20代の頃に保険会社に入ってセールスマンをやってます。
これが、どうやら今で言うところのブラック企業。ノルマとかきつくて、心が風邪気味になってしまう。
これはアカン、ということで転職してるんですね。
だからってワケでもないんですけど、この「変身」ものすごく現代的だなあ、と。
僕はこれは、「介護の問題」でもあるなあ、とか。「ゴミ屋敷」とか「ひきこもり」でもあるなあ、とか。
いろいろな意味でコワク面白かったです。
手塚治虫さんの短編で「ザムザ復活」というタイトルの作品があったはずで、タイトルまんまなんですけど、これも面白かった。
というか、手塚治虫さんの何割かは確実にカフカだなあ、と。
たしか、「ザムザ復活」では最後、虫が羽化して飛び去るんですよね。自由に向かって。いやあ、手塚さんすごい。

という訳で短編だし、すぐ読めます。
で、「判決」「アカデミーで報告する」も面白かったです。
判決は、父と子がいて、少なくともどっちかは、健常者的に言うとイッチャッテルんですけど、どっちがどうなのか分からない掌編。
で、「アカデミーで報告する」は、おサルさんです。おサルさんが、俺はこうやってニンゲンの知恵を得たぜ、ということをアカデミーで報告します。
この2篇もいいけど、ちょっと僕的には、消化不良。

で、実は「掟の前で」。これぁ、すごかったです。おもしれえ・・・という感じです。文庫本で4ページくらいなんですけど。
寓話っていうのか。
掟という門の前で、門番に通してくれ、と、請う。
「だーめ」と言われる。
強行突破したら、まずいよなあ、と。できそうだけど。
遠慮する。ひたすらお願いし続け、お金を送り、それは取られるんだけど、でも断られ続け、野垂れ死ぬ人の話なんですけどね。
この掟という門は、考えようによっては、「人生」そのものなのかなあ、と。
誰も来ないなあ、掟に従わなきゃなあ、とうじうじしてたら、もう、のたれ死に。
その寸前に「誰もこの門に来ないけど、なぜ?」「だってお前専用の門だもん」。
うーん なんかすごいぞ。面白かったです。

カフカさん、ちょっと怖いけど面白いです。翻訳も、素直に読めます。
少なくとも、
「お前らが読んでる本はムツカシイ哲学的な本なんだから、スラスラ読めるなんて思うなよ」
的な、プライドと意地で武装された日本語ではありません(笑)。

光文社古典新訳文庫さんだったら、また読んでみたいなあ、と思いました。


※ちなみに、多分この本で、2013年、コミックを除いて読了100冊目。
 1冊1冊の内容とか厚さによるから、さしたる意味はないんですが、一応ひとつの目安だったんで、正直ちょっとウレシかったりします(笑)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本:お楽しみ
感想投稿日 : 2013年12月31日
読了日 : 2013年12月31日
本棚登録日 : 2013年12月31日

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