三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房 (1991年12月4日発売)
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▼手紙を書くときには、相手はまったくこちらに関心がない、という前提で書きはじめなければいけません。これがいちばん大切なところです。
 世の中を知る、ということは、他人は決して他人に深い関心を持ちえない、もし持ち得るとすれば自分の利害にからんだ時だけだ、というニガいニガい哲学を、腹の底からよく知ることです。
 世の中の人間は、みんな自分勝手の目的へ向かって邁進しており、他人に関心を持つのはよほど例外的だ、とわかったときに、はじめてあなたの書く手紙にはいきいきとした力がそなわり、人の心をゆすぶる手紙が書けるようになるのです。(本文から)
▼「三島由紀夫のレター教室」三島由紀夫。ちくま文庫、221頁。サクッと読めます。2020年2月読了。初出1966年。ウディ・アレンの良くできた恋愛コメディを観た気分。軽いだけに見えて、人生と恋愛への皮肉と諧謔に満ち。ヒトの愚かさに肩をすくめる感じと、そんな愚かさが愛おしい感じ。
▼「女性自身」に連載した小説。編集者もちゃんと役割を果たしたのか、三島さんの小説の中でもおそらくかなり柔らかく、読み易い。で、十分に面白かった。うまいなー。職人というか娯楽に徹しているのか、かなり、マトモです。ヘンタイな感じが薄かった。普通のも、書けるんやんか。
▼5人の、手紙のやり取りが、小説になっています。
①40代の未亡人、英会話塾経営者
②40代の衣服デザイナー、既婚だが、①のボーイフレンド
③20代の会社員女子(①の元生徒)
④20代の演劇青年(②の知人)
⑤30代の暢気なTvばかり見てる男(③の従兄弟)
最後には、ここから二組のカップルが出来上がります。かなり笑えます。あははと笑ってると、まさにエスプリの効いた名台詞にうなります。
▼実は現代性が高い。さすが、ちくま文庫。
メールやSNSが手紙の一種だとすれば、有史以来日本人が(世界中も)これほど手紙を書いている時代はありません。テレビ漬けな男は、ネットやゲームの中毒にも似ています。会ったり電話するよりも手紙を選ぶコミュニケーションは、生ではない活字依存と考えれば、今風ですね。
▼しかし、三島、キレ者だなあ、と、改めて。まだまだ読んでない本がいっぱい。楽しみです。
▼そして、この本には「男が好きな男」が、出てきません。同性愛が出てこない。三島なのに。
▼同性愛者である男性は、女性に冷徹かつシビアかつ洞察的で無駄な優しさの無い助言をできるという、「ベスト・フレンズ・ウェディング」などでパターン化された【イイ男、ゲイ、女の友達】というのが、なんとなく当てはまる気が(三島さんが)。

/////////以下全て本文より///////

▼だれでも、自分と全く同じ種類の人間を愛することはできませんものね。

▼*英語の手紙について
1.手紙はなるべくなら、I(アイ)ではじまらぬようにすることです。
2.物喜びをなさい。
3.日常の些事をユーモアを混ぜて入れなさい。
4.文法や構文に凝るよりも、形容詞に凝りなさい。
5.ときどきちょっと文法や綴(スペリング)をまちがえなさい。
6.英語の手紙ということを忘れて書きなさい。
返事はなるたけすぐ出すように。私は世界中で、日本人ほど筆不精な国民はないのではないかと思います。

▼大ていの女は、年をとり、魅力を失えば失うほど、相手への思いやりや賛美を忘れ、しゃにむに自分を売りこもうとして失敗するのです。

▼恋愛というものは『若さ』と『バカさ』をあわせもった年齢の特技で、『若さ』も『バカさ』も失った時に、恋愛の資格を失うのかもしれません

▼なぜ断られるか?それは彼女にやさしさと自信との平和な結合がないからです。女の真の魅力は、その二つのものの平和で自然な結合以外にはないのですからね。彼女の心のアンバランスを、男性は一目で見抜いてしまうのです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本:お楽しみ
感想投稿日 : 2020年3月5日
読了日 : 2020年2月14日
本棚登録日 : 2020年2月14日

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