岩崎弥太郎と三菱四代 (幻冬舎新書 か 11-1)

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  • 幻冬舎 (2010年1月1日発売)
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岩崎弥太郎が三菱を創設するまでの経緯のほか、それを継いだ岩崎家3代が三菱を発展させていった経緯も学べるお得な本。明治時代の経営者が、利益よりも国家の発展を重視したことも描かれていて、日本の資本主義黎明期の様子も伝わってくる。

弥太郎は、1834年に藩士の身分を失った武士の家に生まれた。20歳のときに両親に反対されながらも江戸に遊学するが、1年も経たないうちに父親が暴行された知らせを受けて帰郷する。25歳で長崎の役職を得て様々な人脈を培うが、遊郭に通って公金を使い込んだため、5カ月で退職した。帰国後、荒地を開拓して新田をつくったり、綿栽培を行ったりして3年間で岩崎家を再建している。32歳の時、経営者としての能力を買われて長崎の貨殖局出張所(土佐商会)への勤務を命じられた。

弥太郎は長崎で坂本龍馬と出会う。龍馬は、脱藩して勝海舟の弟子となり、幕府の神戸海軍繰練所で経験を積んだ後、その同志とともに長崎で海運業や貿易代行業を行う亀山社中を創設していた。薩長同盟を仲介した龍馬を通じて両藩との親交を結びたい土佐藩は、経営難に陥っていた亀山社中を海援隊と改称して土佐商会の下においたため、弥太郎と龍馬は頻繁に交わるようになった。

慶応4年、開港した大阪に移るために土佐商会は閉鎖され、弥太郎も明治2年に大阪商会に配属した。明治3年に政府が藩の商業活動を禁止したため、大阪商会は九十九商会と名を変え、この頃から業務を貿易や商取引から海運業に移っていった。明治4年の廃藩置県後、弥太郎は一時新政府への出仕を目論んだが失敗し、職を失った士族たちを救う組合会社的なものとなった商会のトップに復帰すると、明治6年に三菱商会に改称した。

弥太郎は福沢諭吉の著書から影響を受けて、国家のために列強諸国に制圧されている海運事業の回復を目指し、慶応義塾の卒業生も大量に採用した。一方、政府は外国の汽船会社に対抗するため、三井、鴻池、島田、小野といった豪商にはかって、明治5年に日本国郵便蒸気船会社を創設させた。三菱商会は徹底的なサービス戦略で急成長し、明治7年の台湾出兵の際に政府からの兵と食糧の輸送の依頼を受けて、政府所有船も貸与された結果、日本郵便を抜き去った。明治8年、政府は、政府の保護のもとに民間会社を育成する海運政策を決議し、保護の対象を台湾出兵で実績をあげた三菱商会とした。明治10年の西南戦争では、会社の船をすべて稼働させて政府軍の兵糧輸送を担い、その恩賞として汽船を下賜され、三菱は全国の汽船の総トン数の70%以上を占めるまでになった。

明治11年に大久保利通が暗殺された後、大隈重信らの民権派と伊藤博文らの保守派が対立した。明治14年にクーデターによって薩長閥が実権を握ると、弥太郎が大隈を資金援助していたと思いこまれたため、三菱に与えられていた政府の保護が改定された。明治15年に立憲改進党が創設されると、その資金源とみられた三菱に対抗するため、政府は資金を援助して三井系や関西財界から資本を募って共同運輸会社を発足させた。弥太郎は共同運輸との死闘のさなかに、胃癌のため明治18年に死去した。

三菱を継いだ弥太郎の弟、弥之助は、政府の和解勧告を受けて共同運輸と合併させ、海運業からの完全撤退を決断した。合併して誕生した日本郵船は当初、社長をはじめ、役員や幹部の大半を共同運輸側が占めたが、三菱側の株主は岩崎家で独占していたため、年が経つと三菱から移った人材が主流を占めるようになっていった。明治19年、弥之助は三菱社を設立し、銅山開発、炭鉱、造船などの多角経営を進めた。明治20年に政府から長崎造船所を買い取ると、社員を英国に派遣して技術を学ばせ、日本一の技術力を持つようになった。また、陸軍関係の兵舎や練兵場を移動して空き地となった丸の内を買い取り、いくつものオフィスビルを建ててビジネスセンターを作り上げた。明治26年に商法が改正されて三菱合資会社としたのを機に、弥之助は弥太郎の長男、久弥に経営を譲って引退したが、明治29年には第4代日銀総裁に就任して、銀本位制から金本位制への転換を実現するなど、政界で活躍した。晩年には、社会的責任の観点から、静嘉堂文庫の設立や、日本女子大学や早稲田大学、東京慈恵会に資金援助している。

久弥は機械工業に造詣が深かったため、重工業分野を重視して造船と工業に資本を投下した。また、各部門に独立採算制を導入して経営の合理化を進めた。大正5年、久弥は経営が好調の時期に辞任して、後継には弥之助の嫡男、小弥太が選ばれた。小弥太は、巨大組織に成長した三菱を国利民福のための組織とするため、各事業を株式会社として独立させ、漸次株式を公開していった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年7月2日
読了日 : 2015年7月2日
本棚登録日 : 2015年7月2日

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