裸のメモ

著者 :
  • 書肆山田 (2011年10月1日発売)
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感想 : 2
5

吉増剛造。詩人。
吉増の詩集の中では、
総文字数が圧倒的に多い本です。
なので、
ずっと、
読むタイミングを計っていました。
それで、
こないだ読み始めて、
今日、読了。
ほぼ、10日間ぐらいかな、
地下鉄の中で、片道22分。

評価の★は、
5個までしかないけれど、
50個の★をつけたいです。

この世に、
こんな本が存在すること自体に、
僕は心底、驚いています。
吉増の詩はたくさん読んでいるけれど、
今回は、
読み終えて、
こんな本は、他にない、
と思いました。
何が書かれてあるのか、
さっぱり判らないのだから。
だからといって、
もう読みたくないか、
と言ったら、逆。
無人島に行ったら、
この本を持ってゆけば、
一生、退屈せずに、
過ごすことができそうです。

「フィネガンズ・ウェイク」も、
何が書かれてあるのか、
さっぱり判らなかったけれど、
「裸のメモ」も、
さっぱり判らない。
でも、
読み終えて、
あ、
これは、
海の中のことなんだ、
と思いました。
海の中には、
たくさんの生物がいて、
そのいちいちを、
吉増のいちいちの言葉が、
現しているように、
思えました。
内容は、
「海」なのだから、
言いたいことというよりも、
「海」が、
ここ、または、
そこ、にある、
ということだけを、
押さえておけば、
こんなに愉楽の極みの、
言葉の群れは他にありません。

ジャン・ジュネ、三島由紀夫といった名前がでてくる、
「静かな虚空(アオソラ)」という詩。
これは、震災後に書かれた、
作品です。
虚空ということを、
吉増は言っているのです。

吉増は、
たくさんの、
文学者や哲学者の名前を、
出してきますけれど、
きっと、
想像するに、
彼らの著書への、吉増の、読みは、
計り知れないほど、
深く、独特異であるはずです。

「裸のメモ」を、
読んで、
僕は、
本物の芸術に、
目を通した、
という経験をしました。
去年、
吉増さんに、千種正文館で
お会いして、
ひと言、ふた言、
話ができました。
73歳、驚くほどの瑞々しい感性を持った、
超人、吉増剛造。

この詩集は、
感性で読むのではなく、
ただ、
そこに言葉があって、
それを読めばいい、
そう教えてくれる本です。
「自由」なんていう、
外国の言葉を使っても駄目。
この本の印象は、
確かに「自由」。
でも、
そんなくくり方はできません。
やはり、
この本は、
「海」。
だから、
飽きる、
ということは、
間違いなく、
ありません。

朝吹真理子は、
吉増の追っ掛け。吉増の影響下のもと、
彼女は、
素晴らしい小説「流跡」を書いています。

海の本。
こんな本が、
この世に存在して、
著者も現存している、
という
こと。
愉楽です、
この世は。
こんな言葉、
を、
書く人に、
出会っている。
吉増剛造。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年7月9日
読了日 : 2012年7月9日
本棚登録日 : 2012年7月9日

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