てんとろり 笹井宏之第二歌集

著者 :
  • 書肆侃侃房 (2011年1月24日発売)
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一様に屈折をする声、言葉、ひかり わたしはゆめをみるみず

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作者自身ではない何か(動物でもモノでもなんでも)を主語にする歌はスタンダードで、そのうしろにいる作者の顔を探っていくのが短歌を読む上での楽しみでもあるが、笹井の歌がこわいのは、笹井自身が、その何かにほぼ"なっている"ような、あらゆる事象に近づきすぎてそれらと一体化してるような印象を与えるところだと思う。

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さあここであなたは海になりなさい 鞄は持っていてあげるから

手のひらのはんぶんほどを貝にしてあなたの胸へあてる。潮騒

今夜から月がふたつになるような気がしませんか 気がしませんか

いつからかあなたが虹でTシャツで椅子でついには私なんです

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笹井宏之の作る歌たちは、作者の経歴が歌に影響、共鳴する最たる例だと思う。このメルヘンチックな世界観が、笹井自身と絡み合って、のしかかってくる。

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からだじゅうすきまだらけのひとなので風の鳴るのがとてもたのしい

つめきりが浅く砂浜に刺さっていてこの悲しみには勝てないと思った

あなたがあなたであるということの悲しみの、ひたすら餅をついている夜

れんとげん畑でれんとげんを摘む真夏ひとりきりの老詩人

千年の眠りののちに語られる世界がやさしくあるための嘘

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年5月14日
読了日 : 2022年5月12日
本棚登録日 : 2022年5月12日

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