------本文冒頭
ファミリアは砂鉄に似ている。誰も、磁石の力に逆らうことはできない。
―――朝井リョウの表現について簡単に研究してみる。
189P
“たった四人だと、春休みの学校はこんなにも広い。”
相対的なものの見方。
同じ学校でも人が多ければ狭く感じるし、少なければ広く感じる。
同じ気温でも、シチュエーションが異なれば、暑くも感じるし、寒くも感じる。
もう一つ、これもそうだ。
215P
“からっぽの胃の中に、ぬるい水が落ちていく。満たされている感覚よりも、空白の部分が際立つ感覚のほうが強い。”
満たされることよりも、空白になる感覚から物事を表現する。
このような感覚の表現が新鮮で的確なのだ。
彼の小説には、そういった表現が頻繁に使われる。
これは天性の才能だろう。
或いは、幼い頃から物理的な現象や心の中で思い描く感覚が人一倍鋭いのか。
研ぎ澄まされた五感から産まれ出てくる文字表現。
現代作家の中でこれほど優れて心に染み入るような文字表現できる人間は数少ない。
この作品でも、このような秀逸な表現が至る所で見られる。
そして、まるで女性の内面を知り尽くしているかのような心情表現。
これもまた、彼の天賦の才というべきものだろう。
演劇界のスターと、それを取り巻くファンたちの姿。
彼女たちはどんな理由で、どんな視点で、その位置を保っているのか?
叙述ミステリーのような一面をも持ったこの作品のなかで、彼女たちは葛藤する。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
朝井 リョウ
- 感想投稿日 : 2014年4月3日
- 読了日 : 2014年3月26日
- 本棚登録日 : 2014年3月23日
みんなの感想をみる
コメント 1件
九月猫さんのコメント
2014/05/08