スペードの3

著者 :
  • 講談社 (2014年3月14日発売)
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本棚登録 : 1912
感想 : 296
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------本文冒頭
ファミリアは砂鉄に似ている。誰も、磁石の力に逆らうことはできない。

―――朝井リョウの表現について簡単に研究してみる。

189P
“たった四人だと、春休みの学校はこんなにも広い。”
相対的なものの見方。
同じ学校でも人が多ければ狭く感じるし、少なければ広く感じる。
同じ気温でも、シチュエーションが異なれば、暑くも感じるし、寒くも感じる。
もう一つ、これもそうだ。
215P
“からっぽの胃の中に、ぬるい水が落ちていく。満たされている感覚よりも、空白の部分が際立つ感覚のほうが強い。”
満たされることよりも、空白になる感覚から物事を表現する。
このような感覚の表現が新鮮で的確なのだ。
彼の小説には、そういった表現が頻繁に使われる。
これは天性の才能だろう。
或いは、幼い頃から物理的な現象や心の中で思い描く感覚が人一倍鋭いのか。 

研ぎ澄まされた五感から産まれ出てくる文字表現。
現代作家の中でこれほど優れて心に染み入るような文字表現できる人間は数少ない。
この作品でも、このような秀逸な表現が至る所で見られる。
そして、まるで女性の内面を知り尽くしているかのような心情表現。
これもまた、彼の天賦の才というべきものだろう。

演劇界のスターと、それを取り巻くファンたちの姿。
彼女たちはどんな理由で、どんな視点で、その位置を保っているのか?
叙述ミステリーのような一面をも持ったこの作品のなかで、彼女たちは葛藤する。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 朝井 リョウ
感想投稿日 : 2014年4月3日
読了日 : 2014年3月26日
本棚登録日 : 2014年3月23日

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コメント 1件

九月猫さんのコメント
2014/05/08

koshoujiさん、こんばんは♪

先日は同作の私のレビューに花丸とコメントをありがとうございました。
そちらにもお返事書いておりますが、おススメいただいた「少女は卒業しない」は
近いうちに読もう!と決めました(*^-^*) 楽しみです♪

研究風のレビュー、いいですね。
215ページの表現は私も印象深かったです。
この感覚は実際に何度も感じたことがあるのに、「空白」で表現することはなく……
確かに新鮮ですね。

朝井さんは、私にとってまだまだ未知の、でもなんだか惹かれる作家さんです。
koshoujiさんの本棚には、朝井さんの他にも興味がありながら未読の作家さんも多く、
選書とレビューを参考にさせていただきたいなと思います。
ということで・・・フォローさせていただきました。
どうぞよろしくお願いいたします(*- -)(*_ _)ぺこり。

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