桐島、部活やめるってよ

著者 :
  • 集英社 (2010年2月5日発売)
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本棚登録 : 4613
感想 : 997
5

「桐島、部活やめるってよ」という本のタイトルを知ったとき、そのセンスの素晴らしさに驚いた。
だから、逆に反発心が起きた。
なんでこんなセンスのいいタイトルをつけられるんだ!! という単なる妬みである。
へっ、カッコ良すぎる! こやつ若いのに生意気な! と思ったわけですな。
いい年こいて、ジジイの僻みだ。情けない。
それゆえ、この本を敢えて読みたくなかった。
おかげで読むのにこんなに時が経ってしまった。無駄な時間の浪費。
変なところで対抗心など持つべきではないですな。いいオトナなんだから(笑)。

さて朝井リョウ君の鮮烈なるデビュー作。新鮮である。そして強烈である。
現在の高校生のリアルな心情、葛藤。
スポーツ系男子はイカシている、文科系男子はくすんでいる、という高校生独特の不思議なヒエラルキー。
その男子を取り巻く、意識過剰なオトナ感覚の女子たち。
高校生たちの声に出さない気持、言葉にならない思い。
忸怩たる思いを抱きながら、みんないろんなことを考えている、悩んでいる。
優越感と疎外感を複雑に交差させながら、彼らの関係性をあぶりだしていく。
焼け付くような痛みをも伴って読者の側に伝わってくる。
ヒリヒリしている、でもキラキラしている彼らの日常。
現代高校生の日常の爽やかさと、苦さと、痛さと、混沌をすべて閉じ込めたような作品。
まさに、朝井リョウの真骨頂だ。
その心理描写や情景描写が、しなやかな比喩や言葉を用いて表現されている。されまくっている。

例えば──。
P58:私はどきどきしている。昨日、グラウンドに置きっぱなしだった心が、一瞬で私の小さな胸に戻ってきて、ばくばくと激しく脈を打ちながら体温を上げていく。
P59:ピンクが似合う女の子って、きっと勝っている。すでに、何かに。
P63:私の中の神様は、きっともう小さく萎んでしまっている。
P93:今まで起きたうれしかったことや楽しかったことを大声で叫んだとして、その全部を吸い込んでくれそうな空。この空の分だけ大地がある。世界はこんなに広いのに、僕らはこんなに狭い場所で何に怯えているのだろう。
P113:空は全体的に光の線が編み込まれた橙色をしていて、雲は白だったり薄いオレンジだったり真っ赤だったり、部分部分で色を変えている。この街に生きるすべての人の、今日一日に起きた楽しかったこと、辛かったこと、幸せだったこと、悲しかったこと、何もかも全部を吸い込んだらきっとこういう色になるんだろう、と僕は思った。

輝くような言葉を駆使し、混沌と葛藤を繰り返しながら物語は核心に迫っていく。

目の前のことに正直に悩んだ奴は、苦しんだ分だけ、もうその悩みに距離を置くことなく、真っ直ぐに立ち向かっていける。
だから──桐島、部活やめるなんて言うなよ──
と、最後に思うのだ。

私もこうだったろうか、と遥か昔の高校生活に思いを馳せる。
どんなに記憶を掘り起こしても、これほど毎日がドキドキ感の連続だった覚えがない。
やはり違うんだな。同じ教室に、同じ学校に、女の子がいるのといないのでは。
これを読んで、高校が男子校だったというのは、いまさらながら悲劇だったなと思った。
女生徒の姿も見えない高校生活を送ったせいで、人としてこの時期に必要な考え方や危うい心情を経験せずに通り過ぎてしまった気がする。
ある意味、それは大切な落し物をしてきた、そしてそれは時が経ってからは決して探し出せない何かではないかと、そんな気がしてしまうのだ。
どうしたって時計の針を巻き戻すことはできない、という悲しい事実に直面するのみだ。
ナイモノネダリか……。

彼の作品を読むのはこれが三作目で順番が逆になったが、高校生の痛みも爽やかさも合わせ持ったこの素晴らしい作品がデビュー作というのは綿矢りさ「インストール」以来の衝撃感だ。
映画もかなり評判が高いようなので、DVDで早速見てみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 朝井 リョウ
感想投稿日 : 2013年2月14日
読了日 : 2013年2月2日
本棚登録日 : 2013年2月6日

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コメント 3件

kharaさんのコメント
2013/02/15

実は私もタイトルに反抗し、話題作ということで更に反抗し今に至るわけです。
ピンクが似合う女の子、云々はまさに!一気に読みたくなりました。
『何者』も同じような理由で読んでいませんがそろそろ覚悟を決めようかな(笑)

koshoujiさんのコメント
2013/02/18

kharaさん、コメントありがとうございます。
やはり人間は変な反抗心は持たないほうが良いみたいです。(笑)
「桐島」も「何者」も早くお読みになるのをオススメします。
どちらも、朝井くんの才能を感じさせる傑作です。
もう、私は彼の作品を全部読まずにはいられなくなりました。

kharaさんのコメント
2013/02/21

とりあえず桐島、購入し本日読みはじめました。
なんだか高校生ってこんなかんじだったな、と当時を思い出しなんとなく面映くなったり…
読み進めるのがたのしいです(*^^*)

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