ミチルさん、今日も上機嫌

著者 :
  • 集英社 (2014年5月26日発売)
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冒頭───
今、何時だろう。
 顔の横あたりを探って、スマートフォンを引き寄せる。やっと見つけたそれは画面が真っ黒だ。電源が入っていないことに気が付いて、あーあ、と投げ出した。
 昨夜、寝る前に電源を切ったのだった。自ら。
電源が入っていれば電話やメールを期待してしまう。来るはずもないのに。眠っていてもどこかで意識して、神経はさえざえと目覚めて熟睡できない。それで電源を切ったのだ。
一度投げ出したのを手に取って、息を詰めるようにして電源を入れた。
そんな決心までして生き返らせたのに、画面には昨夜となんの変化もなかった。

どうも最近、軽い本ばかり読んでいる。
女性作家の軽い語り口調の本だったり、図書館の分類としては児童文学とされている森絵都の作品だったり。
あまりに軽い本ばかり読んでいると、頭が馬鹿になるのじゃないかと思うことがある。
自分の思考力や想像力が衰えていくのじゃないかと。
とは言っても、すらすらと読みやすく、読後感も悪くないから、ついつい手を伸ばして、あっという間───それこそ半日で読んでしまうので、やめられなくなってしまっている。
これも、そんな作品だった。

バブルの時代───何故に日本にはあれほど金が有り余っていたのだろう?
もちろん経済的な側面からは何とでも説明することができる。
でも、実際問題、企業は人材不足で、誰もが羨む大企業でも学生を拝み倒して入社してもらったり、その社会人一年生の小坊主に100万円に届こうかというような分不相応なボーナスを与えたりと、まさに狂乱の時代だった。

その数年前に社会人になっていた僕などでも、半年ごとのボーナスは毎度毎度傾斜の急な坂を登るように増え続け、夜な夜な新宿に操り出し、日付が変わるまで酒を飲み、深夜の靖国通りでのタクシー争奪合戦をゲーム感覚で楽しんだりしていた。

土地も、金利も、給与も、ボーナスも、このまま永遠に上がり続けるという雰囲気に酔いしれ、それがいつかは砕け散る幻想だと気付く人間は少なかった。
日本中が浮かれすぎていた。
だが、そのバブル幻想は、90年代に入ると急坂を転げ落ちるように
一気に崩壊する。
よく考えれば、誰でも分かったはずなのに------。

そのバブル時代を奔放に堪能し駆け抜けてきた主人公ミチル。
結婚、離婚を経ても、自分の思いのままに生きてきた。
でも、もはや40代半ば。
ようやくあの頃を振り返る時がやってきた。
あの時代は自分にとって何だったのかと。

今、ミチルは多くのものを失い、自分を見つめながら、チラシ配りという新しい仕事や、そこで出会った人たち、或いは過去に付き合った男たちとの再会などを通して、初めて真剣に自分の人生に向き合うようになっていく。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ☆その他
感想投稿日 : 2014年7月18日
読了日 : 2014年7月18日
本棚登録日 : 2014年7月17日

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