<ネモ船長は概念>
J・ヴェルヌ描く冒険に詰まっているもの、それは言葉にしてしまうと陳腐になるけれど、夢です★ 大空へ。月世界へ。大海原へ。一転して地底へ。どきどきわくわくで鼓動が早くなるような夢の力が、ヴェルヌ作品にはみなぎっているのです。
なかでも、憧れさせる力が特殊に強い『海底二万里』。ヴェルヌ初期のシンプルな冒険譚とはやや異なる航路をたどるので、読み甲斐が違います。
正体不明の巨大海獣が目撃され、政府から依頼を受けた(と言うのがカッコイイ!)アロナックス教授は調査捕獲にのりだします、が、教授の船が沈没。命を救ってくれた潜水艦のなかで、アロナックス教授はあの男と出会います。ついに現れた、ネモ船長★
このネモ船長は真意を語らぬひたすら謎めいた男であり、潜水艦「ノーチラス号」の目的もはっきりせず。わけもわからず連れていかれるアロナックス氏が、そのわりに初めは素直に(?)冒険に手に汗握る、すこしズレた展開ですが……。
まずは大きな船に乗って海洋の神秘に目を瞠り、理系好奇心をとくと満たすというのが『海底二万里』の楽しみの一つです☆
その後、ネモ船長の行動は危険なまでに謎を深め、アロナックス氏との関係も不穏に。「もっと説明してくれないと分からないよ……」と読者からも要望を出したくなる箇所が目立ち出した辺りで、なんと謎は謎のまま彼らは解散決定します。
海中でネモとアロナックスの冒険譚がドッキングし、そしてセパレートしていった成り行きに、何か構造美のような魅力を感じなくもなかったです★
主人公が冒険を思いつき実行に移すというパターンを片足脱し、より複雑な構造の小説へ。ヴェルヌもまた作家としての冒険に出たのか?!
そして、カリスマ性たっぷりながら、意外にちゃんと書かれていなかったネモ船長。読む人のなかにひそむ憧れが投影された、ミステリアスな残像。ネモは人物ではなく、概念でした。
- 感想投稿日 : 2019年5月29日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2004年8月3日
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