臨床犯罪学者・火村と推理小説作家・有栖川が事件に挑む国名シリーズ第4弾。今回は6作品が収録された作品集となっている。一番好きなのは『完璧な遺書』、キャラ的には『ジャバウォッキー』が印象深い。
『雨天決行』
雨後の公園、夜の四阿(あずまや)に倒れていたのはエッセイスト・白石七恵だった。巡回していた警官に「赦してあげて」と伝えて亡くなった彼女の身に起きた悲劇。友人が聞いた「雨天決行」の意味とは?!
ホームズばりの推理力を見せつける火村!この手がかりからそこまでわかるの?!階段を何段も飛び越えていく感覚。推理を聞かされると、なるほどなあって唸るしかない。謎よりも七恵のエッセイの方が魅力的かも。妻に家のことやってもらってる男が「頼らない」って意味の無頼派なんて気取るんじゃねえって話は痛快。これを書いてる女性が「赦してあげて」と最期に言い遺したのがやるせない。
『竜胆紅一の疑惑』
スランプに陥った作家・竜胆(りんどう)紅一からの依頼で、家を訪ねた火村たち。家族に命を狙われているのでは?──竜胆を襲う疑惑の渦。電車のホームで背中を押された。家に放火された。これは偶然か、それとも殺意か。
有栖川と作家同士のシンパシーが描かれたりして、人物描写が面白い作品。ミステリというよりは人間関係のザラッと感を楽しむ雰囲気。
「豊かさなど、手に入ればたちまち当たり前のものになってしまう」
竜胆のこの言葉と、発表をためらう作品『綾子への手紙』のネーミングなど、描かれない裏側こそゾッとするものがうごめいているような気がしてならない。
『三つの日付』
「三年前の三月二十二日の夜、どこにいらっしゃいましたか?」
女性を扼殺した事件のアリバイを崩すため、容疑者・錦本と写真に納まっていた有栖川への所在確認がされた。バー『ナスカ』で撮影された写真と、その時に書いたサインの日付は三月二十二日。アリバイは確定しているように見えたが──。
マスターが一緒にいた作家・赤星楽(あかぼしがく)のファンで、その流れでサインを書くことになる有栖川が切ない。しかし、それがこの事件の糸口になろうとは。よくこんな仕掛けを思いつくなと。俯瞰しなければ見えないナスカの地上絵みたいな話だった。
『完璧な遺書』
愛していた女性・忍を話し合いの場で絞殺してしまった冬樹。彼女の死体を自殺に擬装できないかと計画する。冬樹は彼のもとに届いた署名入りの絶縁状を使って、自殺に見せかけようとするが──。
犯人視点の倒叙もの。自分への絶縁状を利用して遺書を偽造するというのがなんとも皮肉。その完璧に見えた遺書を崩した火村の推理と証拠には驚いた。まさに不意打ちというか、背後から殴られたような感覚。こんなん考慮しとらんよってなった。倒叙ということもあり、犯人のドス黒い思考のうねりも描かれる。こういうドロドロを書くのが上手いなと。
『ジャバウォッキー』
有栖川のもとへかかってきた電話。それはかつて火村とともに面会した人物からだった。謎かけのごとく言葉を遊び回すその男につけたあだ名はジャバウォッキー。火村とともに、その会話に秘められた真意を解き明かしていく。
語る言葉がすべて言葉遊びと暗号になるって雰囲気はイカしてるしイカれてて好き。言葉の端々からジャバウォッキーの企みを看破していく火村と有栖川の連携プレーが熱い!トラベルミステリーの趣も。手に汗握る頭脳戦が楽しめた。
『英国庭園の謎』
資産家・緑川隼人が開いた謎解きゲーム。詩の暗号を解けば、英国庭園の中に隠された宝物が見つかるという。しかし、そのゲームの最中に隼人は書斎で殺されていて──。
殺人事件の捜査と暗号という二段構えの謎が仕掛けられた中編。親戚から元仕事仲間、友人に居候まで、宝探しに招待された人々。なぜ自分が招待されたのかわからないという人も、謎解きとくれば身が入ってしまうのが人間だったりする。そんな稚気に潜む影の意図と、人々から事情聴取していく内に明るみに出てくる人間性の生々しさが対照的。暗号にも驚かされたけど、やっぱり人のネチッと感を描き出すのが有栖川先生の真骨頂か。
- 感想投稿日 : 2022年12月4日
- 読了日 : 2022年12月4日
- 本棚登録日 : 2022年12月4日
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