美大受験をどうにか乗り切った明子。森を抜けた先には広い海が広がっているはず。しかし、絵を描くには最高の環境で、明子は絵を描く意味を見失ってしまう。雪に染まる金沢で、彼女は白いキャンバスの前に立ち尽くす…。
美大時代を赤裸々に綴っていて、描いている先生と同じように「わー!」と胸を掴まれるよう。ぼくも大学に入ってやることを見失ってた時期があって、それを思い出した。ぼくがお世話になったフランス語専攻の先生は、明子が出会った先生と同じぐらい純粋で良い人で、あの先生が居なかったらぼくは卒業できてなかったかも…。
「焦って描けば描くほど キャンバスの上の色がどんどん濁っていく 先生の言う通り 絵っていうのは描く人間の心の中がそのまま出ちゃうんだ」
絵は自分を映し出す鏡みたいだなって感じた。言葉以上にありのままを伝えてしまう言葉。絵はこだわろうと思えば果てしないし、描いたものが正解かもわからないし、心を削ってキャンバスにのせていくような作業なんだろうね。
固まった絵の具となっていた明子の心を溶かすように、ただひたすらに絵をこだわり続ける日高先生。厳しいだけじゃない絵へのひたむきさ、誠実さがひしひしと伝わってくる。
「ねえ先生 私はまだもがいてる途中だよ いつまでたってもあの時のままだよ」という現在の東村先生の言葉に、のむらしんぼ先生が「いつになれば楽に描けるようになるんでしょうか!?」と『ドラえもん』の藤本先生に問いかけたことを思い出す。その答えは「私なんか20数年描いてきて─、いまだに苦しんでいますよ」だったという。読者を楽しませるマンガを命を削りながら描く。描く人は本当にすごい。
- 感想投稿日 : 2021年7月14日
- 読了日 : 2021年7月14日
- 本棚登録日 : 2021年7月14日
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