魔術の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房 (2004年3月16日発売)
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感想 : 66
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旧友の依頼で、マープルは寄宿学校時代の友人・キャリイの家を訪ねた。その邸宅には非行少年を集めた少年院があり、夫・ルイスは彼らを救う慈善事業にのめり込んでいた。そんなある時、妄想癖のある少年・エドガーに夫の命が狙われる事件が発生し──。
ミス・マープルシリーズ、長編の五作目にあたる作品(どこから読んでも大丈夫)。

「あの家の雰囲気が普通ではないの。証拠はないけどあたしの勘は間違いないわ。あなたの眼で確かめてきてほしいの」
という旧友でありキャリイの姉・ルースの無茶ぶりによって、ミス・マープルはセロコールド邸に潜り込むことになった!その家は実に奇妙ッ!少年院が併設されていて、その事業に没頭する圧倒的善人・ルイス。元精神病患者で妄想癖があるが、ルイスに雇われて秘書を務めるエドガー。さらに、キャリイの元夫たちとの子どもや、養女の子と夫、気難しい付き添い人など、癖が強い住人が勢ぞろい。何も起きない方がおかしいやろ!という、ただならぬ雰囲気が漂っている。

そんな中で事件の号砲が!ホールで衆人環視の中、扉を挟んだ書斎にて錯乱したエドガーがルイスに向けて発砲するという事件が発生する!ルイスは撃たれずに済み、事なきを得たと思いきや、別の部屋で手紙をタイプしていた男が射殺されていた。な、何を言ってるのかわからねーと思うが(略)状態!しかも、キャリイの身にも災いが降りかかっている。混沌とした舞台でミス・マープルが見るものは魔術による幻覚か、それとも真実か?!

ネタがわかってしまうと、なんでこんなことに気づかなかったんだろうと思うトリックが合っている作品。元夫と子どもが多すぎでわかりづらいのと、ミステリや人間ドラマとしては他作品と比べると薄味に感じるかも。ただ、タイトル回収からの結末のビターさは余韻深い。善と悪が紙一重であるということ。それは華やかな舞台の裏に回れば、それを隠す舞台裏があるという人生の二面性を内包しているのかもしれない。

個人的に、ミス・マープルを評した刑事のこの一言が好き。

「年はとっているが、なかなか鋭いばあさんですね──」

なかなかどころじゃない鋭さなんだよなあ(笑)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2024年3月3日
読了日 : 2024年3月3日
本棚登録日 : 2024年3月3日

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