江神二郎の洞察 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2017年5月28日発売)
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感想 : 64
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アリスと江神部長の出会いから始まる一年間の出来事を綴った短編集。9編の作品は日常の謎あり、トラベルミステリあり、誘拐からミステリ論議まで幅広くボリューム満点。読者も推理研メンバーの一員となって四季を過ごせる一冊。

『女王国の城』まで読んで手をつけるのもいいし、時系列的にはマリア加入エピソードまでなので、『月光ゲーム』だけ読んでおけば充分に楽しめる(本編のネタバレはなし)。本編の中では描かれていないミステリ研の日常が面白い。読みたかった余白をワクワクで埋めてくれる作品集。これを読んでからまた本編を読み直すと、キャラへの思い入れも一層深まっていいよね。

特に好きな作品について、
本編でもちらっと顔をのぞかせた事件『桜川のオフィーリア』。石黒の友人・穂積宅で見つかった写真。そこには川で亡くなった友人・青葉の姿が収められていた。それは穂積が彼女を殺したという意味なのか、それとも…。その写真に込められた意味を知った時の衝撃は、あの美しい死体の映像とともに胸の奥に焼きつくようだった。

「四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。……いや……Aから先です」
アリスの隣の公衆電話で話していた男の謎の言葉を紐解く『四分間では短すぎる』。この言葉からこんなストーリーが生まれるの?!ってなるし、推理していく過程が面白い。この言葉を味わい尽くすには四分間では短すぎる。一晩中かかりそう(笑)

年越しを過ごすアリスと江神。新元号への推理から、望月の書いた推理小説の犯人当てへと移り、さらにミステリの本質を語り合うという読みごたえ抜群すぎる『除夜を歩く』。元号の話は平成から令和へと変わった今の時点で読むとまた楽しい。あと、江神のミステリについての言葉が印象深かった。最後にそれを引用しておきます。

「ミステリはあらかじめ底が抜けてる、と言うてるんや。数学的なパズルや、論理学が研究対象とする論理とは断絶してる。困った顔をせんでもええ。繰り返すけど、その論理は幻なんや。どんな幻を描いたかでミステリの価値は決まる。俺にとっては、そういうもんや」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年7月17日
読了日 : 2021年7月17日
本棚登録日 : 2021年7月17日

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