神社などにある、ふた通りの坂。短くて早く行けるおとこ坂となだらかでゆっくり登れるおんな坂。そんな坂道を感じさせる人生の機微を描いた短編集。主人公はほとんどがごく普通の男。おんな坂をゆっくり上るタイプだ。それが以前の知り合いなどに会い、彼女・彼のおとこ坂の人生を振り返る。そしてもう少し違っていたら、そうだったのだろうかと。だれでもあり得るようなちょっとした人生の分岐点。それをおとこ坂おんな坂にたとえて描き、読後感は不思議な切なさが残る。もちろんハッピーエンド的な話もあるが、どちらかというとやるさなさ、まあそうだよね、というようなラストが多い。しかし嫌な感じでは無く、むしろ現実に即していてほっとするような。ちょっとファンタジックというかミステリ系のラスト2作は、まあ、これもここまででよかったな、というところで終わっている。夜、トイレに行ける程度の怖さ(笑)であった。正直私は阿刀田高さんの作品というと「怖い」のでは、と怖じ気づいて読んでいなかった。学生時代聞いていたラジオ番組に、阿刀田高さんのショートショートを朗読するコーナーがあって、どれもとても怖くて、未だにそのイメージが払拭されていないのである。今回、毎日新聞の日曜版に連載していたもの、と知り、たぶん大丈夫と思ったのである。中には怖いものもあったが、おもしろかった。どれもちょっと不思議で、ちょっとシニカル。「つきづきしい」とか「ビヘイビア」とか彼独特のちょっとキザっぽい言い回しも嫌いではない。このテーマでここまで何作も書くというのはさすが短編の名手だな、と思った。少しご都合主義的なところが気になった「ルビコン」などでマイナスして星4つ。
- 感想投稿日 : 2013年1月25日
- 読了日 : 2013年1月25日
- 本棚登録日 : 2013年1月25日
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