太陽の塔 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2006年6月1日発売)
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本棚登録 : 19957
感想 : 2147
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太陽の塔とは大阪万博の際に岡本太郎氏によって作られた今なお残るどデカい怪物だ。私がこの作品を読んだのは、その「太陽の塔」そのものに馴染みがあったからである。何を隠そう私は生まれてから15年間、万博記念公園のある吹田市に育ったのだ。もちろん成人式も太陽の塔に不気味な眼差しを向けられながら厳かに行った。私の子供時代を象徴するような(自分を投影するにはあまりにバカデカすぎるが)ものがテーマとなっている作品は読まないわけにはいかないだろう。著者ももう顔馴染みの森見登美彦氏だし。

この作品は腐れ大学生が主人公であるが、四畳半や夜は短しとは少し違った雰囲気を感じた。あらゆる原因を周りの環境のせいにして自分を神棚にまであげるような超偏屈大学生、というわけではないように感じた。短いこの物語を通して驚くほど主人公が成長しているのだ。「何らかの点で彼らは根本的に間違っている。なぜなら私が間違っているはずがないからだ。」が口癖の主人公は恋人や唾棄すべき友人との青春を十分に謳歌している。確かに少し空回りしているようなところもあったが、そこも含めてとても愛らしかったし自分を見ているようだったし、なにより羨ましかった。当人においては全く青くないと感じる日々でも、他人から見ると真っ青に見えたりするのだ。なにやら「青いトマト」のような話だが、実際私から見れば真っ青なのである。きっとこの今の自分も何年後かの自分から見れば青春の思い出であり、尻の青さに驚くのだろう。顔を真っ青にする未来の自分が目に浮かぶようである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文芸書
感想投稿日 : 2021年5月8日
読了日 : 2021年5月1日
本棚登録日 : 2021年4月30日

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