スペードの3 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2017年4月14日発売)
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本棚登録 : 2686
感想 : 218
3

個人的に好きな朝井リョウさんの本。
前から気になっていて、文庫化されていたので即買い。

元スター女優、ファンクラブのまとめ役、新メンバー、3人それぞれの視点から成り立つストーリー。
身近な3人の物語にも関わらず、それぞれの主観から見ることで世界の見え方、感じ方がまったく異なるところがとても面白い。

朝井リョウさんは、こういう小さなコミュニティー内に生じる感情(特に嫉妬、妬み、蔑み等の負の感情)を描くのが本当に上手い作家だと思う。
「何者」では「就活生」、「桐島、部活辞めるってよ」では「高校」、また今回は「ファンクラブ」と実に多彩なジャンルを描いている。
作品を読みながら「意地悪だなぁ…」、「えぐいなぁ…」と感じる一方で、それを理解できる、つまり同じような感情を持っている自分に毎回気付かされてしまう。
何となく他人に朝井リョウ作品を勧められないのは、自分の黒々とした内面がバレて、人間性を疑われるのが怖いのかもしれない…(笑)

個人的に一番印象に残ったのは「スペードの3」。

自分も「失敗を犯さないように確実に待ちながら進める」タイプであり、何となく美知代と近いものがあるなぁと感じながら読み進めた。
もちろん、ここまでネチっこくはないけれど…(笑)

「自らが気持ちの良く過ごせるフィールドで生きることの心地良さ」は理解できる部分もあった。
この本では、それが悪いコトのように書かれていたが、一方でそのフィールドを守ろうとすることは誰しもがあるのではないだろうか。
もちろん、どこまで他人に迷惑をかけながら押し通すかというサジ加減は必要だと思うけれど…

そして最後のシーン、待っているだけでは何も起きないことに気付く美知代。
「在庫数、また、直接聞きに来ます」、すごく爽やかで素敵なセリフだった。
唐木田さんと、上手く行けばいいな。

<印象に残った言葉>
・家に帰るためではなく、どこかへ向かうために乗る終電だなんて、一体、いつが最後だったのだろう。大学を卒業して、もう七年が経つ 。(P28、美知代)

・美知代ちゃんは、この世界で、また学級委員になったつもりでいるの? (P103、むつ美)

・ どれだけ待ってても、革命なんて起きない。(P150、むつ美)

・ 在庫数、また、直接聞きに来ます(P158・美知代)

・ 自分のためでいいのだと、むつ美は思った。こんな自分をごまかすことができるだけの理由や言い訳を探すことに時間がかかってしまったけれど、そうでなくていいのだと思った。私は、私のために、よりよくなりたい。そう思うことでこんなにも呼吸がしやすくなるのならば、きっとそれは醜い欲望ではないのだ。(P244)

・ 謙虚さを大切にしよう、と思ってしまった時点で、もう後戻りはできない。意識して大切にしている謙虚さなど、本当の謙虚さではない。(P261・つかさ)

・ ごめんね。ずっと、私のほうがずるくて。(P323・円)

・ その人の背景や、余白や、物語は、それ以上のものにはなり得ない。それ以上のものになり得るように見えるときもあるけれど、決して、なり得てはいない。そのときそのときに出会ったものを積み重ね、吐き出して生きている私たちにとって、そのときそのときに想像されたかもしれない物語なんてどうでもいいのだ。そこにあるのは、そのときのその人自身、それだけだ。(P343・つかさ)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー有
感想投稿日 : 2017年7月9日
読了日 : 2017年7月9日
本棚登録日 : 2017年7月9日

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