パリの風景。これしかない構図が気持ちいい。
順調だけどしっくりこない生活を送るギルが、憧れの1920年のパリに迷い込み、ヘミングウェイやダリ、ピカソなど
強烈な個性との邂逅を経て、幻想を捨て今を生きること、自分にとって大切な思いを大事にすることの幸福に気付く寓話。
この作品自体が、ギルが実体験を元に執筆した小説、という設定になっている。
この小説の執筆にあたって、ヘミングウェイやガートルード・スタインから指南を受けている。
「物語が真実なら 題材はなんでもいい。簡潔かつ率直な文体で 窮地における勇気と気高さを肯定する内容ならな。」
「あなたの小説はとっても変わってるわ。空想科学小説みたい。誰もが死を恐れ、自分の存在を問い直すわ。
芸術家の仕事というものは絶望に屈せず、人間存在の空虚さを打ち破り救いを見つけることなのよ。
あなたは明晰な文体をもっている。敗北主義は似合わないわ。」
ギルは1920年のパリと芸術家達を愛してやまない。しかし彼等との邂逅を経て、やがて小さな真実に気付き始める。
「時々思うんだ。このパリの街を凌げるような小説や絵画や交響曲や彫刻を人は産み出せるんだろうかってね。
でも無理だ。だって見てご覧よ。どこの街角も大通りもどれもそれぞれが芸術作品なんだ。
まるで奇跡みたいだ。冷たくて暴力的で意味のない宇宙にパリが存在する。この光が。
本当 木星や海王星には何もないんだよ。でも宇宙からはこの光が見える。カフェや人々。酒を飲んで歌って。
僕らが知る限りパリは宇宙一華やかな場所だ。」
「もっと昔に生まれていたら幸せな人生がおくれたのにって」
「懐古主義は、苦悩する現代への拒絶だよ。いわゆる“黄金時代思考”だ。
昔は今より優れた時代だったという誤った認識だ。現代に対処できない夢見がちな人間の欠陥だな。」
2010年のギルは1920年のパリが良いと言い、1920年のアドリアーナは1890年ベルエポックが良いと言い、
また1890年のドガやゴーギャンはルネサンスが黄金時代だと言う。
しかし皆が口を揃えて言う。「今なんかつまらない。退屈さ。」
「僕は今小さな真実に気付いた。“今”ってそういう満たされないものなんだ。人生って満たされないものだからね。
本当に価値のあるものを書きたいとしたら、幻想はきっぱり捨てなければいけないんだ。
過去はよかった、だなんて幻想なんだ。」
ウディ・アレンさん。あなたはこの作品で、客観的な自己分析と自己批評で自己の欠陥をしっかりと認め、
いろいろあるけど今を生きるしかないこと、人から何と言われようと大切にしたいことを選択する幸福を
ついに明確に示しましたね。
探偵が中世に迷い込んでしまう「笑い」あり、ギルが大切にしたいことを判り合える女性と出会う「カタルシス」あり。
そりゃ、ラストのCan-Canで拍手喝采ですよ。
- 感想投稿日 : 2018年5月21日
- 読了日 : 2018年5月21日
- 本棚登録日 : 2018年5月21日
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