見知らぬ場所 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2008年8月1日発売)
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本棚登録 : 663
感想 : 70
5

「停電の夜に」「その名にちなんで」に続く、ジュンパラヒリの小説です。
まず何が好きかというと、邦題がスバラシイ。題名だけで、読欲がそそられます。

今回も、インドのコルカタからアメリカに渡ってきた家族の話。
物語の主人公はいずれも、アメリカで育ち、インド人としてのナショナリティーが薄く、親とはどこか一線をひいているような、20代~30代の夫婦もしくは兄弟が多い。

第一部は、5つの短編小説で成り立ちます。
「見知らぬ場所」では、母を亡くした娘の元に、同じアメリカの土地で一人暮らす父が訪ねてくる。物語は、父の視点、娘の視点で交互に語られていく。
このまま居座られたらどうしよう、お父さんなんてどう扱っていいのか分からんよ。という娘の悲観的な思いとは裏腹に、何日かを父と一緒に過ごして分かった事は、父は独立していて、そしていいおじいちゃんで、今は母以外のコルカタ女性に心を寄せる、一人の男だったということ。

「地獄/天国」の親夫婦は、ラヒリの小説で良くみかける夫婦像で、お見合い結婚し、互いをよくしらないまま突然アメリカでの生活を始めた、少し距離感を感じる二人。その娘が「叔父さん」と呼んで親しむ若い男に、母は、静かに恋をしていた。そんな母の心の苦しみを、大人になった娘だけに、そっと打ち明ける。同じ苦しみを少しでも和らげるために。

「今夜の泊まり」では、子供を親に預け、久しぶりに夫婦で友の結婚式にでた二人が、結婚後のマンネリムードを吹き飛ばし、非日常的な空間で燃えてしまう。

「よいところだけ」は、珍しく、アップダウンがあり、暗い終わり方をする物語だった。珍しいのは、しっかり者の姉に対し、社会からドロップアウトする、という弟の人物設定も同じ。ラヒリの小説に出てくる男たちは、いつもインテリで頭もよく、ホワイトカラーの職業につく、いわゆるエリートばかり。

第二部「ヘーマとカウシク」は3編からなる中編小説。
アメリカに住むインド人ヘーマの家族の元に、両親の友人夫婦と、その息子であるカウシクが短い間、居候をする所から始まる。
「一生に一度」は大人になったヘーマが、カウシクと一緒に過ごした幼い頃を懐かしむように、それをカウシクに語りかけるような口振りで綴られていく。
「年の暮れ」では、カウシクが、ヘーマと別れ別れになったのち、大学生だった頃の様子を、今度はヘーマに語りかけるように綴られる。
そしてアラフォーになった二人は「陸地へ」でイタリアにて偶然の再会を果たす。ドキドキするけど、とても悲しい再会の果て。

映画を見ているように、情景が浮かんでくるジュンパラヒリの小説。早く新作出ないかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: フィクション
感想投稿日 : 2011年5月25日
読了日 : 2011年6月5日
本棚登録日 : 2010年3月19日

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