この人は理性原理主義ですね。ヘーゲルの精神世界もぶった切るし理性の奸計も否定する。意識の外の存在すら認めないし、偶発性や蓋然性は理性の解釈が入り込めるに際しては認めない。したがって、歴史とは科学であり、理性による事実の選択と解釈があってはじめて歴史が紡がれるとする。そこには徹底的にナイーブなアカデミズムしか存在しないように思われる。歴史にロマンを求めることはカー博士にとってとんでもないことのようです。ただ、何事にもロマンを求める余地を与えないと、たとえばシュリーマンによるトロイ遺跡発掘もなかったかもしれないし、古代文明の研究は進まなかったかもしれませんね。それにしても、カー博士は辛辣で嫌味な物言いをされます。これは、英国上流社会におけるエスプリというかウィットを効かせた話術なのかもしれませんが、日本語使用世界の住人にとってはちょっと反発心が頭をもたげます。ストレートな和訳でなく、もう少し考えた訳が望まれるような気がします。
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カテゴリ:
歴史科学
- 感想投稿日 : 2023年10月22日
- 読了日 : 2023年10月22日
- 本棚登録日 : 2023年10月22日
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