サヴァイヴ

著者 :
  • 新潮社 (2011年6月1日発売)
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本棚登録 : 1893
感想 : 372
4

「サクリファイス」シリーズ3作目、6編収録の短編集。

「老ビプネンの腹の中」
老ビプネンとは、フィンランドのカレワラという神話に登場する巨人の神様。
エデンの少し前、チカがフランスに移って4ヶ月ほどのころのお話。
取材の対象を調べもせずに、煽っておもしろい発言を出させようとするような記者には「サクリファイスとエデンを読んでから出直してきたまへ」と言ってやりたい。

「スピードの果て」
サクリファイスの2年後で、終章のすぐ後ぐらい。
我が強く勝気なエース気質で、脚質はスプリンター。誰よりも速く走り、勝利を手にすることを望む伊庭。そんな彼が思わぬトラウマを得、思ったように走れなくなる。
伊庭の意外にナイーブな面が見られるが、反面、チーム内からの孤立・対立は気にしないのも彼らしい。
最後にたどりついた結論も彼らしく、悔しさも笑顔も不敵を越えていっそ清々しい。
伊庭目線のお話はまた読んでみたいな。

「プロトンの中の孤独」
赤城&石尾がオッジに入ったころのお話。
石尾はわかるけれど、赤城もチームから浮いた存在だったとは驚き。

「レミング」
プロトンの――から2年後。
オッジの単独エースになった石尾と、すっかり角が取れてきた赤城。
石尾と周りとの緩衝材になり「石尾係」とまで呼ばれているが、肝心の石尾のほうにはまだ壁がある。
そんな石尾が赤城に敬語を使わなくなる=垣根が取れた瞬間が描かれていて感慨深い。
赤城のアシストとしての感情の発露がきっかけなのだが、そこから石尾の本当の意味でのエースの自覚ができたのかもしれない。
アシストの夢を喰らって手にする重い勝利を背負い立つエースの。

「ゴールよりももっと遠く」
レミングの5年後。チカと伊庭がオッジに入った年。
石尾は押しも押されぬエースとなり、オッジは彼のためのチームとなっている。
描かれるのは、スポンサーあってのスポーツの闇の部分。仕方の無いことと思う気持ちと納得の出来ない気持ち、割り切れなさ……。
石尾の静かで激しい、彼なりの抗議行動がかっこよすぎる。
ラストシーンのふたりの会話がまたいい!

「トウラーダ」
エデンから数ヵ月後、ポルトガルに移ったチカ。
一本目のチカ話と同じくドーピングがらみのお話で、死人は出ないものの、やるせなくてちょっと後味もよくない。
ゴールよりも――のラストがとてもよかったので、そのまま終わってほしかったかも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: か行の作家(国内)
感想投稿日 : 2013年5月10日
読了日 : 2013年5月9日
本棚登録日 : 2013年5月10日

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