失踪した夫と離婚が成立した詩織は、学生時代からの友人の紹介で学校司書の職に就く。
こつこつ努力して高校の音楽教師になった友人が“アリ”なら、自分は“キリギリス”だと例えているのがタイトルの由来。
帯にはブックミステリとあるけれど、日常の謎というにも謎が足りず、ミステリを期待してはいけません。
いちおう謎と呼ぶものとしては、大きくはふたつあって、前半は、前任司書「永田さん」の謎。
本の妖精のような人だったという彼女は本の町に旅立ったという噂。
本と職場の図書室を愛してやまない彼女が急に辞めたのはなぜ?本の町とはどこ?
週末に3日間だけ何度も借りている「世界の夢の本屋さん」に関係があるの?
彼女が残してくれた丁寧な引継ぎマニュアル、手をかけられた居心地のよい開架、そういうものに触れるたび永田さんのことが気になる詩織は、本の町のことを調べ始め……。
ふたつ目の謎は、なぜか他校の蔵書印のある本。
寄贈されたデータはなく、詩織の学校の登録書籍として存在しているのに、なぜ?
その本のタイトルが「小さな本の数奇な運命」というのだから、またなんともぴったり。
謎が解かれ、現れるメディアミックス企画の思い出の楽しそうなこと!
その後に訪れる文化祭。図書室では3つの企画を出す。
栞に好きな本のキャッチコピーを書き、展示。お客さんに心に留まったものを投票してもらう、ブックマークコンテスト。
テーブルごとに同じ本を読み、その本について語り合う読書会、ブックテーブル。
(リテラチャー・サークルという方式を採っている)
何冊か(ここでは3冊。流れや関連があるように選択)の好きな本について聞き手に紹介する、ブックトーク。
ところで、詩織には隠された能力がある。
本に触れると、その本を読んだ人の思いを読み取れる、というもの。でもはっきりとした思念が読めるわけではなく、特に大活躍する力ではない……ので、正直コレいらなかったかも。
特に物語終盤、ブックマークコンテストのために書かれたたくさんの栞を前に、伝わってくる思いを感じるところで、
“栞に触れた指先から、書いてくれた人たちの思いが伝わってくる。その本で楽しんだり、心が震えたり、新たな知識に興奮したりした思いだ。それが他の誰かにも味わってほしいという思いに変わり、様々な言葉となって記されている。”298ページ
”栞に染み込んでいるのは、本から生まれた喜びや善意の結晶だった。それが詩織を内側から温めてくれている。”298ページ
これらの思いは「力」がなくても伝わったと思う。むしろ力を使わないほうが、たくさん伝わってくるような気がする。
詩織も元オットも、いい加減な司書教諭(最後のほうで少し株を上げますが)も事務長も、大人グループに残念な人が多いので、☆3つ。だったのだけど。
ウォーターボーイズやスウィングガールズの、ラストの演技や演奏に感動して泣いてしまうタイプなので、最後のブックトークでの生徒たちにこれまたじんわりきてしまい、このこどもたちが大好きという気持ちで☆4つに上げました。
なかでも本を全く読まなかった男の子が、一冊の本と出会い影響され、一人旅に出かけるほどになってしまう姿が印象的。
なんちゃって司書と呼ばれる学校司書のシステムなど現実的に切ない話もあるけれど、本好き・図書館(図書室)好き・きらきらしたこどもたち(高校生ですが)が好きという方にはおススメです。
最後に自分のために、ブックトークの定義として本書に書かれている文章を引いておく。
“読書の喜びを語る行為である。本の内容や知識を教えるのではなく、朗読や読み聞かせをするのでもない。ブックトークの目的は、その本を読みたいという気持ちにさせること。”311ページ
少しずつでも、こういうレビューを書けるようになれたらいいなぁ。
(まずはこのムダムダな長文をどうにかするところから……はふぅー。)
- 感想投稿日 : 2013年8月16日
- 読了日 : 2013年7月30日
- 本棚登録日 : 2013年8月14日
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