(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2013年6月28日発売)
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あとがきで著者は謂う。

貧困は「結果」だ。
現象だけではなくその根幹にある原因を探っていくと、いまのアメリカの実体経済が、世界各地で起きている事象の縮図であることがわかる。
経済界に後押しされたアメリカ政府が自国民にしていることは、TPPなどの国際条約を通して、次は日本や世界各国にやってくるだろう。
2013年2月28日。安倍晋三首相は、所信表明演説の中で明言した。
「世界で1番企業が活躍しやすい国を目指します」
いま世界で進行している出来事は、単なる新自由主義や社会主義を超えた、ポスト資本主義の新しい枠組み、「コーポラティズム」(政治と企業の癒着主義)にほかならない。
(略)
コーポラティズムの最大の特徴は、国民の主権が軍事力や暴力ではなく、不適切な形で政治と癒着した企業群によって、合法的に奪われることだろう。
本シリーズに登場する〈独占禁止法〉〈グラススティーガル法〉〈消費者保護法改正〉〈おちこぼれゼロ法〉〈農業法〉〈医療保険適正価格法〉〈モンサント保護法〉といったこの間の法改正を見るとよくわかる。これらが実施されるたびに本来の国家機能は解体され、国民の選択肢が奪われてきたからだ。(274p)

本書では特にSNAP(補助的栄養支援ブログラム)により生活保護財源がウォルマートに吸い取られてゆく仕組みや、遺伝子組み換え食品の保護法(モンサント保護法)、遺伝子組み換え種子で世界を支配する仕組み、切り売りされる公共サービス、政治とマスコミが見事に金で買い取られている仕組みなどが展開されている。

このシリーズはアメリカの暗部を紹介することで、その拡大再生産である日本の未来の姿が想像出来るように常に描かれてきた。そういう意味では、日本の市民運動に大きな示唆と励ましを与え続けている書物だと言っていいだろう。

私は、この本で度々言及されるマスコミによる国民操作は、既に日本でも完成形に近づいているように思う。しかし、貧困大国にはまだアメリカほどにはなっていないと思うし、教育や農業や医療や環境や自治体などはまだ大企業の言いなりにはなっていない、と思う。もっともこれも、TPPが成立すれば一挙に変わるかもしれない。

これらの動きの根幹はコーポラティズムだと彼女は云う。言い方は違うが、やはりマルクスが警告していた「資本主義」の最終形態なのだと、私は思う。

彼女の著書はいつも最後にわずかな希望を描く。もちろんネットの力にも言及している。しかし、不良債権を買い取る運動や、企業献金を一切受け取らない候補者を応援する運動など、多様で具体的な「智恵」を出すこと、そのことの重要性の方を強調していると思う。そして、1%のグローバル化に対して99%のグローバル化、「個のグローバリゼーション」、つまり「市民運動」の世界的な連帯に希望を見出している。

それはこの本では具体化されない。具体化するのは、私たちの課題だからだ。

「貧困大国アメリカ」シリーズは終わるそうだけど、著者は同じ仕事をこれからも続けてゆくに違いない。アメリカの動向についてこれからも私たちはきちんと知ることが出来ると信じている。
2013年8月22日読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: か行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2013年8月29日
読了日 : 2013年8月29日
本棚登録日 : 2013年8月29日

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