チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

  • 岩波書店 (2011年6月16日発売)
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感想 : 114
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1986年4月チェルノブイリ原発第四号炉の原子炉と建屋が崩壊
1996年「チェルノブイリの祈り」初出
1998年初めて日本で出版
本書は私にとって、大げさに聞こえるかもしれないが、人生の中で出会ったもっとも大切な書物のひとつである。(解説・広河隆一)
自分たちが知らないもの、人類が知らないものから身を守ることはむずかしい。チェルノブイリは、私たちをひとつの時代から別の時代へと移してしまったのです。私たちの前にあるのはだれにとっても新しい現実です。(著者本人へのインタビュー)
出版から15年後、いま新たな「未来の物語」が日本を舞台にして繰り広げられようとしている。(訳者あとがき)

看護婦にいう。「夫が死にそうなの」彼女は答える。「じゃあ、あなたはどうなってほしいの?ご主人は1600レントゲンもあびているのよ。致死量が400レントゲンだっていうのに。あなたは原子炉のそばにすわっているのよ」ぜんぶ私のもの。私の大好きな人。(消防士の妻)
最初の数日に感じたことは、ぼくらが失ったのは町じゃない。全人生なんだということ。(父親)
ーチェルノブイリ、これは戦争にわをかけた戦争ですよ。(村人)
四年後に初めて、娘の恐ろしい異常と低レベル放射線の関係を裏付ける診断書を発行してくれました。四年間拒否され、同じことをいわれてきました。「あなたのお子さんはふつうの障害児なんです」(略)私は気が狂ってるといわれ、古代ギリシャだってこんな子どもが生まれたんだといってばかにされた。「チェルノブイリの特典めあてだ!チェルノブイリの補償金めあてだ!」とどなったお役人もいます。私は彼の執務室でよくも気を失わなかったものです。(母親)
お母さんが、私がチェルノブイリから移住してきた家庭の娘であることを知ると驚いたんです。「まああなた、赤ちゃんを生んでも大丈夫なの?」私たちは戸籍登録所に結婚願いを出したのに。彼は「ぼくは家を出る。アパートを借りることにしよう」と懇願します。でも、私の耳にはおかあさんの声。「ねえあなた、生むことが罪になるって人もいるのよ」(娘)
最初の撮影は村の集会所でした。舞台にテレビが置かれ、住民が集められた。ゴルバチョフが演説するのを聞いていました。「すべて良好、すべて制御できている」(映画カメラマン)
ぼくらは科学の研究材料なんですよ。国際的な実験室です。ぼくら1000万人のベルラーシ国民のうち、200万人以上が汚染された土地でくらしている。悪魔の巨大実験室です。データの記録も実験も思いのままですよ。各地から訪れては学位論文を書いている。モスクワやペテルブルク、日本、ドイツ、オーストリアから。彼らは将来に備えているんです。(教師)
あなたの質問にお答えします。なぜ、私たちは知っていながら沈黙していたのか、なぜ広場にでてさけばなかったのか?私たちは報告し、説明書を作成しましたが、命令にはぜったい服従し、沈黙していました。なぜなら、党規があり、私は共産党員でしたから。(科学アカデミー核エネルギー研究所元主任)
ユーリャ、カーチャ、ワヂム、オクサーナ、オレグ。こんどはアンドレイ。アンドレイはいった。「ぼくらは死んだら科学になるんだ」。カーチャは思った。「私たちは死んだら、忘れられちゃうのよ」。ユーリャは泣いた。「私たち、死ぬのね」。いまでは、空はぼくにとって生きたものです。空を見あげると、そこにみんながいるから。(子ども)

何度もこんな気がしました。
私は未来のことを書き記している‥‥。(スベトラーナ・アレクシエービッチ)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: た行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年3月4日
読了日 : 2017年3月4日
本棚登録日 : 2017年3月4日

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コメント 1件

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2021/04/19

kuma0504さん
人って判らないものだと、、、広河隆一。増補版が出て絶版にしたみたいね。

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