福沢諭吉「学問のすすめ」 ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫 330 ビギナーズ日本の思想)

  • 角川学芸出版 (2006年2月25日発売)
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チコちゃんは聞きます。
「学問のすゝめ」は何を書いている?
「学問のすゝめ?知ってるよ。天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず、というヤツでしょ?明治の四民平等を広めた人だよね」
そんな風にドヤ顔で答えてくる一般人のなんと多いことか。
ボヤーっと生きてるんじゃねーよ!

その人に聞きます。「貴方は学問のすゝめを最初から最後まで読んだことがありますか?」
おそらくほとんどの人は読んでいない。私も、大学のゼミで、半年かけて読むまでは、福沢は四民平等を訴え、自由民権運動を理論面から支えた人だと思っていた。ところが、最後まで読むと福沢は自由民権運動にほとんど関心を持っていないことがわかる。何故こんなことになったのか?
理由はある。福沢諭吉は、話しこどばで学術書を書いた先駆けであり、本書は明治のベストセラーになったので、簡単に読めるとみんな勘違いしているのだ。いざ紐解くと、かなり高度で幅広い問題を論じているので、ほとんどの人が途中で挫折するのである。或いは最初だけ読んで理解した気になっている。それは「読んだ」とは言わない。

「四民平等」の「権理」(権利)を述べたのは、ほぼ最初のみ。
そのあと、「自由」と「わがまま」の違い、や「政府が産業を起こすべきか」「民間が産業を起こすべきか」とか、国民はこれから「実業」を学ぶべきだとか、「人と人との付き合い」は「国と国との付き合い」につながるし、「一身独立」してこそ「一国独立」する、というような、現代でも「意見の分かれる事案」ではあるが「重要なこと」をつらつら、ほぼ4年間(1872-76)かけて書いている。全17巻の啓蒙書集である。明治時代初めてのベストセラーだった。一巻20万部も発行された。全て合わされば340万部も国内に出回ったという。当時の出版事情、識字率を考えれば、ものすごい影響力を持っていたとは言えよう。

結果的に明治時代のブルジョワ資本主義を理論面から支えたのかもしれない。その方向が正しいのかどうか、そもそも日本は福沢の思った方向に行ったのか、その辺りを検証しようとすると、物凄く難しい学術書にならざるを得ない。

福沢は「もし、国民が全員学問に志して物事の道理を知り、文明の風潮に進むならば、政府の法もいっそう寛大で情け深いものとなるでしょう。法が過酷になるか寛大になるかは、国民の品性によってどちらかの傾向が強まるのです」(佐藤訳)という。
だから富国強兵は、福沢の当然の帰結であったし、イギリスの属国に成り下がったインドなどは絶対避けたい国の姿でした。

この方向に、第二次世界大戦の日本の悲劇があると思っている私には、やはり漢文調の本を書き続けていた中江兆民の「小国主義」を対置してしまう。

「学問のすゝめ」は何を書いている?
一言では表せない、明治時代初めての国のグランドデザインを書いていた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: か行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2022年1月31日
読了日 : 2022年1月31日
本棚登録日 : 2022年1月31日

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