よくもまあ、こんなとっぴな思い付きをしたものだと思う。思いつきのきっかけは近所の図書館に掲げてあった「図書館の自由に関する宣言」のプレートだったらしい。彼女のだんなが見つけたらしいが、このわずか五箇条から、この一冊だけでなくどうやらシリーズ六冊を書いたことに敬意を覚える。
その宣言とはこれである。たぶん一図書館の志をいたずら心で宣言したのだろうとは思う。シリーズ一冊目はこれがそのまま章立てになっている。
図書館の自由に関する宣言。
一、図書館は資料収集の自由を有する。
二、図書館は資料提供の自由を有する。
三、図書館は利用者の秘密を守る。
四、図書館はすべての不当な検閲に反対する。
図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。
「すこしいさましいな」という感想から、図書隊という独立武装組織を発想するのである。
以下ブックデータより<あらすじ>
2019年(正化31年)。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る”王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…!?番外編も収録した本と恋の極上エンタテインメント、スタート。
警察や自衛隊ではなく、良化特務機関と図書隊との「検閲」をめぐる武力抗争であるところが、「ありえるのかなあ」と思ってしまうが、なんとまあすれすれありえているのである。以下のような細部の設定も作っているので、まあ許しちゃおうかなとも思ってしまう。
検閲対象施設外の公共物や個人資産を射撃で破損した場合、その補償は「中から外へ」向かって撃つことが必然の図書隊の負担になることが多い。実際には特殊な損害保険で処理するが、損害実績は保険料の値上がりに直結する。近年保険料は値上がりの一途を辿っており、図書隊の予算をかなり圧迫している。
一方「外から中へ」向かって撃つ良化部隊は被害を拡大する心配もなく、また国家行政組織であるため図書隊とは比べ物にならない予算を確保しており、射撃を躊躇する必要はない。懐を気にしなくていいのは図書隊からすると羨ましい限りだ。
内乱と見紛うような「戦争」をしておきながら、それが単なる検閲をめぐる攻防であるところが味噌である。
この作品が発表されたときには、某首都都知事のマンガ規正条例は情報さえなかった。絵空事として書かれていたことが(まさにこの小説は絵空事であることを祈りながら書かれているのであるが)、それが現実化していることの「大いなる皮肉」が現代なのであった。
今年の三月に収録したという著者と児玉清さんのインタビューが巻末にある。三月というと、すでに胃がんの告知の直後である。そういうことをまったく感じさせない「本好き」の児玉さんの知見がここにある。そういう意味では貴重な文庫になった(もしかしたら絶筆インタビューかも)。二巻目にもインタビュー後編が載っているらしいので、話の内容はちょっと背伸びをした少女マンガを超えていないので辟易するのであるが、一応読んでおこうと思う。
- 感想投稿日 : 2011年9月17日
- 読了日 : 2012年6月1日
- 本棚登録日 : 2011年9月17日
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