調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)

著者 :
  • 講談社 (2008年4月18日発売)
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ノンフィクション作家のハウツー本である。体験に裏打ちされた知恵と、ノンフィクションの取材の仕方の本は少ないという希少性とで、大変興味深いものであった。

ノンフィクションを書くときの絶対不可欠な条件があるという。「これを書かなければ、死んでも死に切れない。」というような切実なテーマは普通の人にはないが、しかしそれなりに突き詰めておく必要があるだろう。幸いにも、特別ノンフィクションではないが、私には三つのテーマがある。ところが、私の悪い癖で、もう30年くらい書く書くといいながら書いていないのが、大学のときの卒論で失敗した中江兆民論と社会人になってすぐに志した加藤周一論である。この15年の間に志した弥生時代を舞台にした小説も閑になったら直ぐ書けけるかというと、この半年の経過がそうではないと言う事を立証した。しばらくまた忙しくなるけど、このくらいが一番創作環境はいいのかもしれない。

直ぐには役に立たないかもしれないが、重要だと思ったところをメモしておこうと思う。
●テーマ決定のチェックポイント
1、時代を貫く普遍性を持っているか。
 海面下の氷山が、まったく思い寄らない場所に、その突端を突き出しており、調べれば調べるほど新たな突端が見つかるようならば、しめたものだ。あなたの選んだテーマは、時代を貫く普遍性を持っているのである。
2、未来への方向性を指し示せるか。
3、人間の欲望が色濃く現れているか。
 この視点は新鮮だった。「人間は論理ではなく感情で動く。その感情を突き動かしているのは、煎じ詰めれば欲望である。」
4、TVなどの映像メディアでは表現できないか、もしくは表現不可能に近いか。
5、そのテーマを聞いた第三者が身を乗り出してきたか。……
プロの編集者に一度相談してみるのは必要かもしれない。
●ともかく動いてみる。……そうだよね、それが私には足りないところだ。
●情報収集の方法。
 資料を得るメディアは、その鮮度の順番から言うと、ネット、テレビおよびラジオ、新聞、週刊誌、月刊誌の順番。一方情報の確度からいうと、単行本と新聞が比較的高く、最下位にはネットが来る。
 森健が運営している「moriken.org」で各紙や各メディアのニュースを手軽に読むことが出来る。
 新聞をパラパラめくっていて、気がつく情報も多い。検索では分からないこと。
 プロの書き手を目指すなら、たとえ一食抜いても本にお金を注ぎ込むべきだ。……プロは目指さないんですけど。でも傾注に値する意見ではある。
●情報は袋ファイルに入れている。……私も一時期やったことがある。あのときの袋は20年ほど経過した今、もう一度見直す必要があるかも。
●単行本の読み方。
1、インタビュー集や対談集を手始めに読む。
2、入門書から出発し、徐々にレベルを上げていく。
3、対象となる人物や出来事を様々な角度から論じている複数の本を読む。
4、精読すべき本、通読する本、拾い読みでかまわない本を選別する。……気に入った本は2-3回読む。これもあまり出来てていないなあ。
5、資料としての本は乱暴に扱う。……つまり書き込み等をたくさんしようということ。だから基本的に買わなくてはいけないのだが、貧乏金無し。つらいところではある。この本も図書館で借りた。(だからこんなに詳しくメモしている^^;)
●一次情報の質は作品の質を決める。つまり取材対象の人選は大切である。
 住んでいる地域が分かるならば、とりあえず104番で聞いてみる。公表していないならば、じかに現地を訪ねて家を探す。所属する会社や組織が分かっているならば、そこから辿っていける。
……加藤周一論ならば、矢島翠さんということになる。もしくは、別れたドイツの女性。そして、まだ存命ならば、詩にも出てくる妹さん。
……けれども、とってもそんな勇気はない。
●取材の申し込みの例文などやお礼状なども載せていて、いざというときには、もう一度読み返そう。
 相手が電話に出たならば、必ず「今お電話よろしいでしょうか」と相手の都合を聞く。「突然お電話差し上げまして、大変申し訳ございません」礼儀は丁寧すぎるぐらいでちょうどいい。「誠実」が最も大切。
他のところでは「原稿をこちらが送稿したのに何の連絡もしてこない編集者の多いことと言ったらない。心配なので電話すると、ちゃんと届いている。」と書いている。
……私もこれに似た経験がつい最近あった。ある機関紙に原稿をメールで送った。これでいいのかどうなのか気になるので、何回か電話したのであるが、ちようど祝島に行くときと重なっており電波が届かない状況になっていた。そのこともあるから、私のほうからは何度も電話したのである。震災のばたばたしているときと重なっており、いつもすれ違いになっていた。結局機関紙を見ると、ちゃんと原稿が載っていた。電話が通じないのならば、せめてメールで返事するなりしておいて欲しかった。私は三回も電話したのである。彼のほうから、電話がかかったという形跡はなかった。期待していた編集者だけに非常に残念であった。
●取材を断られたときの食い下がり方が、たくさん載っていて、面白い。
●ここで肝要なのは、なぜその人物にあいたのか、あって何を知りたいのか、もう一度自分に問いかけて、明確な答を出しておくことだ。
●取材の事前メモの要点などもここに載っている。質問事項をノート一ページほどにメモしたら、質問の重要度に従って◎や○印をつける。そして、質問事項を大づかみに覚えてしまう。
●取材当日、絶対にしてはいけないのが、遅刻である。遅くとも15分前、出来れば30分前にいく。遠方ならば一時間前にいくぐらいがちょうどいい。中には入らない。もんの前で待っておく。余裕を持つ持たないでは、先方の印象が全然違う。
●インタビューの聞き方。
しゃべることの倍を聞くつもりで。「相手と同じ大きさの声で話す」というのは黒田清の弁。
 メモをしない方法もある。数字などは小さいメモに書いて、あとは直後にファミリー・レストランに駆け込んで直ちに書く。案外出来るものである。……わたしも短いインタビューで何回かしたことがある。案外出来る。
●初対面の印象は重要。それこそがその人の本質に近いことがままある。だからその日のうちにノートに出来るだけ詳しく書く。
1、顔つき、体つき。
2、服装、ファッション。相手の靴。
3、表情。とくに目と口の動き。
4、しぐさ、癖。たとえば、腕を組む、こちらの目を正視しない等々。
5、視覚以外の感覚で感じたこと、たとえば、声の調子、握手のときの手の暖かさ、握力の強弱、体臭、香水の匂い。
●最後にお勧めしたいもの。
活字に限らない。映画でも芝居でも、絵画でも音楽でもあらゆる表現ジャンルでまず自分が関心を持ったものにどんどん接近していく。それから自分の関心と多少はずれていても、世評の高いものに触れてみる。最初は広く浅く、徐々に狭く深く、いずれは広く深く、方向性を変えながら、貪欲に吸収していく。するといつの間にか自分のなかに「貯水池」みたいなものが出来上がっているのに気がつくだろう。
貯水池にだんだん水が溜まっていき、あふれ出たものが、自分のテーマなり、自分の表現なりになる、そういったイメージが私にはあるのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さ行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2011年10月8日
読了日 : 2011年10月8日
本棚登録日 : 2011年10月8日

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