東京ではなく、東亰(とうけい)である。決して東京の古語ではない。と気がついたのは、最早読み始め既に終わりに近づいてから。(←もはやネタバレのひとつ。すみません。でも、多くのレビューがパラレルワールドって書いている)ずっと気になっていた作品をやっと読めた。
明治29年。基本的に当時の明治東京と変わらない。中江兆民という民権運動家も固有名詞で出てくる。ところが、昨今東亰界隈には火炎魔人や闇御前という無差別殺人者が跋扈する。謎の人魂売りや般若蕎麦、不審な読売り、黒い獣、辻斬り、黒衣の者‥‥夜中にだけ登場するそれらは、確かに現代の歴史書には出てこない。
妖怪変化、魑魅魍魎の物語かと思いきや、話の中心はサイコキラーの正体を探っている帝都日報の記者・平河新太郎と香具師の万造の探偵物語だった。最終章までは。
「電灯だとか瓦斯灯だとか。夜の端々に灯火を点して闇を追い払った気でいるようだが、灯火は畢竟、紛いものでしかない。夜はただ暗いだけじゃないのだからね」そう言って、黒鉄甲の手が娘の顎を軽く撫でる。「川面に板を浮かべて蓋をするようなものだ。板の上に土を盛って石を敷いて、それで川を無くしたことになるのだろうか」(15p)
生きたような娘人形を抱えた黒衣の者は、例えばそう嘯(うそぶ)く。そう言えば‥‥リアル東京も、かつて川や運河は縦横に流れていただろう。それが総て「暗渠」になっているのだとしたら?今もその闇の流れの中で、魑魅魍魎が蠢いているとしたら?案外不思議はないのかもしれない。
ほとんど、コレは「もうひとつの十二国世界」だ。それもそのはず、発表は1994年。91年「魔性の子」から始まった、神仙と妖魔とその世界の人間たちが住む十二国が縦横に語られ始めた頃と、一致するのだ。十二国は我々の世界と、僅かな道で結ばれている。本書の不思議な出来事が、「あの世界」の影響ではないと誰が言えよう。
- 感想投稿日 : 2022年11月13日
- 読了日 : 2022年11月13日
- 本棚登録日 : 2022年11月13日
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