村上海賊の娘(四) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2016年7月28日発売)
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ー自家の存続。
木津川合戦にかかわった者のほぼすべてが望んでやまなかったこの主題は、結局のところ、誰も果たせなかったと言っても過言ではない。(349p)

和田竜の作品を読むのはこれが初めてだった。しかし、映画は観た。「のぼうの城」である。あの作品は、派手めなところは荒唐無稽に見えて、話の大筋は史実に沿っていたのが、大きな魅力だった。驚いたのは、主人公たちのその後をキチンと史料に沿って説明していたことだ。かなり突き放した感じで、説明していた。のぼうに恋い焦がれていた「姫」の想いが全然叶わなかったこと、わざわざ説明しなくてもいいのに、とさえ思った。

しかし、「史料」には時々裏がある。或いは、彼らの行動の多くは事実だったとしても、行動にうつるその「想い」は史料を書いた著者の意図と離れている場合も多い。私は映画を観て、城の明け渡しを百姓のために拒否したのぼうの想いを疑いはしない。映画や小説で、延々と描かれる細部に真実は隠れているだろう。

和田竜が、小説描写の合間合間に、異様に「史料」を挿入するのは、史実の合間に隠された、想いの真実を、浮かび上がらせたいからに違いない、とこの長編を読んで確信した。

「鬼手」が史実としてあったかどうかが、問題ではない。「鬼手」という秘策によって、海賊たちが、海賊らしい戦いをした「史実」が問題なのだ。

木津川合戦の後の登場人物たちの人生を説明した後に、和田竜はこう書く。それには、ここで説明されなかった真鍋七五三兵衛の事も、当然入るだろう。

ーそれでも、いずれの人物たちも、遁れがたい自らの性根を受け容れ、誰はばかることなく生きたように思えてならない。そして結果は様々あれど、思うさまに生きて、死んだのだ。(349p)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ま行 フィクション
感想投稿日 : 2016年8月31日
読了日 : 2016年8月31日
本棚登録日 : 2016年8月31日

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