プロジェクト・ヘイル・メアリー 下

  • 早川書房 (2021年12月16日発売)
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本棚登録 : 4684
感想 : 510
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「状況は、質問?」
「サンプラーを回収した。これからもどる」
「驚き!しあわせ、しあわせ、しあわせ!」
「ぼくがなかに入るまで、しあわせとかいうな!」
「了解」(97p)

‥‥近ごろ巷に流行るもの。「伏線回収」「ネタバレ厳禁」。
本作では、レビューで奇妙なほどに「ネタバレ厳禁」の緘口令が敷かれた。
ワタシはオカシイと思っている。もちろんエンタメ作品、ましてやミステリなどでは、ラストやトリックネタバラシなどはマズイというのはよくわかる。
しかし、それ以外で「ただ、ただ、真っ白なまま読んで欲しい」「ゼッタイ面白いから!」というレビュー、つまりそういうレビュー自体は果たして面白いだろうか?人は知らず、私は糞食らえ、だと思う(失礼)。

私は本作レビューで「ネタバレ厳禁」流行の元凶が、下巻末の山岸真さんの「解説」にあるのではないかと推測している。彼は冒頭で「できれば本書は、内容についてなんの事前情報もなしに読んでいただくのがいちばんいい」と書いているからである!!何故なら、主人公がヘイルメアリー号で目覚めて、最初自分が誰でどこに、何故いるのかわからない状況から、持ち前の科学的知識とキッカケを通じてそれを解明していくのが「読みどころ」だからだ、と述べている。その「解説」については100%同意する。私もそれが本作品の魅力だと思う。それならば、山岸さんは、それ以降作品内容について一切言及していないか?というと全くそうでは無い。あと何と5ページにかけて、ラストと大きな展開を避けながら、ほとんど上巻の全部と作品テーマまで言及しているのである!!!
いや、違う。山岸さんは上巻の半分までしかネタバレしていないという貴方、それは違う。上巻の半分ならば充分「事前情報」だとおもうのだが、それは置いといて(他の方のレビューでは幾つか直裁なネタバレが散見するけど)一応山岸さんは真綿に包んだ言い方でこう表現している。「宇宙パートはバディものとして展開する」。こう書く事自体でほとんどネタバレなのである。だって冒頭ヘイルメアリー号に残っていたのは、主人公だけだったんですよ!これを書くだけで、普通の読者ならば下巻の展開まで見通してしまう。山岸解説を私は支持しない。山岸さんは「ネタバレ厳禁」の「呪い」をかけてしまった。もっと書きようがあったろうと思う。

因みに冒頭の「抜き出し」は、本作の重要パートでもなんでもない。普通の「会話」である。でも、会話できている事自体が不自然だし、この会話、いろんな不自然がありますよね。このぐらいのネタバラシが私の「水準」です。この辺りが、この作品のセンス・オブ・ワンダーな処です。

でも、答え合わせの楽しみだけは担保しておきたいので、以下私は「真綿に包んだ言い方」で本書の魅力を展開したい。

山岸さんは、本作のテーマ・魅力を約2ページにかけてじっくりと解説していた。一応それはあるだろうと思う。是非読んでいただきたい。それ以外で、私は一点指摘しておきたい。

私は上巻のレビューにおいて、下巻の展開を予測した。ネタバレを避けながら以下のように書いた。
「私は現代パンデミックが、作家の発想にヒントを与えていると思う!」
実は(ネタバレだけど)上巻冒頭で、ヘイルメアリー号のクルー3人のうち主人公を除く2人が冷凍睡眠のまま死んでいたことが、本作を貫く大きな謎だし、それが宇宙を貫く本作の「事態」の原因になっていたのだと「私は」推測していたのである。結果は「スカ」(※)でした。ごめんなさい。2人の死亡原因は裏の裏ではなく、途中で説明されていた通りだったし、宇宙の真意は「パンデミック」とは関係なかった。「三体」の第二部途中での私の推理が「スカ」だったのと同じように、私の創作才能の無さが露呈したようです。

で、「三体」に言及したことで気がついたのだけど、もしかしたら本作はSF世界的歴史的ベストセラー「三体」のアンチテーゼになっているのでは無いか?ココは未だ誰も語っていない(はず)。私独自の視点です!!

「三体」は壮大な宇宙歴史絵巻でもあったのだけど、それを貫く重要な宇宙的真理として「黒暗森林」理論がある。第3部下巻のレビューにおいても私は疑問を呈しているが、実は私はこの作品の背骨とも言える理論に同意できない。
「宇宙は実は手探りの黒暗森林のようなもので、文明を持つ星は別の文明星を見つけ出し次第、自らが殺されないように直ぐに相手を抹殺しないわけにはいかない」という理論である。つまり、暗闇のジャングルでヒトとライオンが出逢った時には「ハロー」なんて言うヒマは無いと言う理論である。

でもホントにそうだろうか?
それが知的生命体のとるべき道だろうか?

「三体」自体が今までのSFのアンチテーゼだった。だから「三体」は、私は傑作だったと思っている。しかし、「三体」の存在自体がココまで大きくなった。今この時に「いや、そうじゃない」という物語を紡ぐのは重要なことなのではないだろうか?特に139ページの問答とラストの展開は重要である。人類の物語の水準はこうやってアウフヘーベン(止揚)される。

私ブクログにおいて、ネタバレ注意のためのスクリーンは使用しない。使っても使わなくても、人の嫌うネタバレ水準はさまざまであって意味はないからである。私は私基準のネタバレ注意記述をしてゆく。

ただ、書いていて何か四角張ったつまらないレビューになってしまった事が悔しい。本書はもっとポップで楽しいものである。そんなレビューにしたかったのではあるが、才能がないので、ここまで。

※ 文脈でわかるとは思ったが、もしかしたら「すか」という言葉自体、初めて聞く人が多いと気がつき、解説を残したい。

‥‥「スカ」とは昔の駄菓子屋で使われた言葉。高くて10円で引かせてくれた「くじ引きお菓子」の「外れ」の意味である。転じて「外れ」「ダメ」という意味で使われる。「今日はスカやった」(←もしかしたら私の周りだけだったのだろうか?)
因みに新明解国語辞典(第五版)では以下。
すか(関西方言)(肩すかしを食わされる意)あてが外れること。(ーを食う)
‥‥微妙に違う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行 フィクション
感想投稿日 : 2023年3月19日
読了日 : 2023年3月19日
本棚登録日 : 2023年3月19日

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コメント 3件

みんみんさんのコメント
2023/03/19

kumaさんお疲れ様です♪
スカに食いついてしまいました笑
わたしは愛知、スカ…何か選んだ時にハズレだった時に使いますね(^ ^)
駄菓子のハズレ、まさにスカ!カスの反対だと思ってました〜♪

まことさんのコメント
2023/03/19

kuma0504さん。こんにちは♪

私も今、図書館にこの本、予約取り置き中です。
苦手なSF作品なので、読めるかどうかわかりませんが。
私も皆さんがレビューで、ほとんどどなたも内容を全く書いてくれなくて、ただ面白いとだけあるのが、不満でした。
なぜ、皆さんが総じてネタバレなしなのか、少しわかり、内容も少しわかりました。
ありがとうございます。
もし、ちゃんと読めたら思い切りネタバレでレビューしちゃおうかと思ったりして。

kuma0504さんのコメント
2023/03/19

みんみんさん、こんにちは。
「スカ」という言葉自体は割と広範囲に使われているんですね。それとも、愛知は関西圏内なのか?
駄菓子屋のくじ引きで「スカ」を使うのは、一部地域だけだったのかな。

まことさん、こんにちは。
「ネタバレ厳禁、面白いから事前情報なしに読んでみて!」というレビューは、自らレビューする事を諦めている様にしか思えないんですね。レビューする以上は、一定はネタバレしないと出来ないというのが私の持論です(^_^;)。そう言った解説子自体が、事前情報を随分と出していることでも証明できます。

最近、SNSで国民総評論家現象が起きていて、伏線回収強制ファシズム、ネタバレ厳禁ファシズムが横行している様に感じるのは私だけなのでしょうか。

でも、一方でネタバレはどこまで許されるか、というのは古くて新しい問題であり、難しい。今回はもう少しネタバラシしても良かったと実は思っているのですが、私の関心はエピソードやキャラではなくて、テーマなので、そのあたりを紹介する余裕がなかったというのが実情でした。まことさん基準でネタバレレビューして「面白いレビュー」を期待しています♪

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