百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社 (2010年8月31日発売)
3.89
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本棚登録 : 8080
感想 : 846
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なんも、密かに流行している乙一まつりに参加しようなんて、気持ちはサラサラなくて、単に古本屋の本棚に白い背表紙が目立っていた、だけ。

文庫本では、中田永一紹介に、本書がデビュー作とある(発行当時は未だ覆面作家中)。初中田永一、初(小説としては)乙一。そうか、中田永一って、こういう作風なんだ。デビュー作には、作家の資質のほとんどが出てくる。

⚫︎そうか、「百瀬、こっちを向いて。」の台詞をそのタイミングで出すか。テクニシャンだよね。

⚫︎「なみうちぎわ」、そうか、一応恋愛小説っぽい話だけど、ミステリなんだ。

⚫︎「キャベツ畑に彼の声」、そうか、これはまるまる和山やま「女の園の星」のパクリだ。じゃない、「女の園の星」がか!

⚫︎「小梅が通る」そうか、キュンキュンさせるという恋愛小説。確実に確信犯だ。

だとすると、
ぼくはまだ誰も気がついてないことに気がついてしまった。

百瀬たちは「刑事ジョン・ブック 目撃者」を、いつ観たのか?公開は1985年である。という事は8年後の現代パートでも1993年という事になってしまう。携帯出てこないから、多分確定だ。
その次の話は、1997年と2002年が交互に描かれる。初出は2006年である。
次の話では、PHSへの買い替えや、テープのダビングが描かれる。おそらく90年代終わりだ。初出は2007年である。
その次の話は、サティが主な舞台になる。しめしめ、時代がわかるぞ、と思ったら、2006年イオンに統合されるまで細々と続いていたらしい。「ナルト」も99年から14年まで連載しているので同定できない。でも多分2000年代前半である。初出は2008年である。

つまり、長くて10数年、短くて4年前のお話を作っているのである。「花束みたいな恋をした」が最初から過去譚として描かれたように、キュンキュン譚は過去譚として描かれないと、リアルにならない。何故ならば、今現在、隣の若者がキュンキュンされたら、とても見ようという気にならないからである。それを見越して中田永一は確信犯として恋愛小説を作った。計算づくのテクニシャンと彼を呼ぼう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ま行 フィクション
感想投稿日 : 2023年5月22日
読了日 : 2023年5月22日
本棚登録日 : 2023年5月22日

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コメント 6件

土瓶さんのコメント
2023/05/22

過去の話だからキュンキュンする。なるほどです。
「花束みたいな恋をした」も、観てみようかな。いろいろタイミングが合わなくて観てないのです。

とりあえず私はクマさんのレビューの1行目出だしの3文字にやられました。
「なんも」(笑)
めんこいですね^^

kuma0504さんのコメント
2023/05/22

土瓶さん、
「花束ー」は、それこそ超絶技巧の恋愛映画です。

「なんも」に反応してくださり、ありがとうございます。これは決して書き間違いということではなく、岡山県人は決して発声しない言葉をわざということで、なんらかの異化効果を期待したテクニシャンの言葉だったのです♪

土瓶さんのコメント
2023/05/22

あ、それから中田永一さんこと乙一さんが、計算づくのテクニシャンであることは同意します。

この人、根が理数系の人なんですよね。
たしか「乙一」という一見変わったペンネームも、当時愛用していたPCか何かからもじったものだと記憶しています。
いろいろと計算は得意な方なのでしょう。
また、映画好きでもあるので魅せかたとかも計算するのかも。
たしかどこかで彼が書いていたと思うのですが、ハリウッド式のシナリオの書き方みたいな本を参考にしているとか、いないとか。

本書「百瀬、こっちを向いて。」でもご指摘の通り、タイミングもそうですが、実はこの文、話し言葉であるにもかかわらず「」を使用せずに地の文として書かれているんですよね。
たしかこの話の中でそういう使い方をしているのはここだけだと思います。もちろん計算してますよね。

「百瀬、こっちを向いて」よりも

百瀬、こっちを向いて

どちらが読者の印象に残ったのかは言うまでもないでしょう。囁くような心情が加味されてるようで、うまいなぁと思いましたよ^^

土瓶さんのコメント
2023/05/22

クマさん。
「なんも」に意味があってよかったです。
いつかの「しそて」のような悲劇がまた起こるのかとひやひやしました(笑)

kuma0504さんのコメント
2023/05/22

土瓶さん、
勉強になります。
確かに他にもいろいろ技巧を使っていそうですね。

ちなみにハリウッド式シナリオを参考にしていると書いていたのは(ちょうど今読んでいる途中なんですが)「ミステリの書き方」というオールスターの短文集に有るのだと思います。

kuma0504さんのコメント
2023/05/22

土瓶さん、
いや「しそて」にしないように今さっき一生懸命取り繕いました(^^;)。

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