世界を売った男

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年6月11日発売)
3.29
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本棚登録 : 114
感想 : 20
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車の中で目を覚ましたHKPFの許巡査部長は6年分の記憶を失っていた。
許は昨日まで捜査をしていたはずの凄惨な事件の真相と己の過去を、ゴシップ新聞記者の阿沁と探し始める。

うあー。ものすごく評価が難しい…。
ミステリとしてだけだったら、ネタもきちんと練られているし、最後のもうひと捻りも効いているし、何よりそこに到るまでの伏線もきちんと張られているしで悪くない。
寧ろ、過去からタイムスリップしてきたかのような男がどうやって現在の自分を取り戻すのか面白かったし、そのオチもなるほどね、と思うものだった。
やや安直に思える流れも、15万字以内という制限の中ではよくやった方だろう。

ただ、ただ訳文が…。
第一屆の受賞作「虚擬街頭漂流記」のときにも感じたのだけど、この訳者の文体が柔らかすぎて、この作品には合わないんだよね。
前作のような作品にはふわふわしたイリュージョンのような効果があったんだけど、この作品は逆に軽く上滑りしているような印象を与えてしまっている。
ハードボイルドなんだからもっと乾いた筆致で読みたかった。
すごく勿体無く思ってしまったよ。

で、こっからは広東語話者の愚痴。読み飛ばしていいよ。






作中に出てくる広東語読みのルビがメタくそで話にならないレベル。
単純な間違いもあるけど、同じ漢字なのにページや使われている単語によって違うルビが振られているのはお話にならない。
編集とか校正って何やってたの?
人名の姓だけ北京語のルビが振ってある人物もいて、何かの伏線?とか思いながら読んだのに、何にもなくってがっかりとか。
訳者は台湾を舞台に活動している方らしいのだけど、だったら広東語話者にチェックしてもらうぐらいの労をとればいいと思うの。
ってか、そもそも作者の名前『陳浩基』に「サイモン・チェン」とルビが振ってある時点で覚悟はしてたんだけど、酷すぎるわ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 翻訳ミステリ
感想投稿日 : 2012年12月25日
読了日 : 2012年12月25日
本棚登録日 : 2012年12月25日

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