旧字で書かれた古い文庫版で読みました。文章の美しさはさすが。内容も思ったよりずっと読みやすく、好きな西洋文学を読んでいる感覚でした。終盤の展開は、私はもっと悪い事態を予想していたので、救いのある展開にいくらか安堵しました。とはいえ、悲惨な話であることにかわりはありませんが…。
この作品には、「差別の問題を取り上げているようでいて実は藤村自身の内面を描いているに過ぎない」という批判がある、という解説を読みましたが、「夜明け前」にも似たような批判があったような…。こうした批判の当否はともかく、社会の抱えた闇に切り込んでいこうとする藤村の姿勢には好感が持てました。
差別の問題って根が深いですね。
今も、この時代のようなあからさまな差別は減っているとは思いますが、無くなってはいないし、特定の出自の人間を差別する代わりに、いじめだったり、パワハラだったり、家庭内暴力だったり…。
どうも人間は自分の属する社会において「自分より上の人間」「自分と同じ程度の人間」「自分より下の人間」を決めたがる傾向があるらしい。
人間という社会的動物の闇の部分をまざまざと見せつけられたような気がして、何ともいえない気分になりました。
一度は読んでおきたい名作だと思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本文学
- 感想投稿日 : 2014年4月6日
- 読了日 : 2014年4月6日
- 本棚登録日 : 2014年4月6日
みんなの感想をみる