とりかえっこ (絵本のせかい 21)

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 ゴールデンウィークに入ってから、いつもの図書館では絵本のイベントが盛んに行われている影響か、絵本の特設コーナーでは、いつまでも読み継がれるであろう名作特集(と、私は勝手に解釈している)を展開しており、本書(1978年)も、そこで初めて知りました。

 「とりかえっこ」というタイトルを聞いて、果たして何をとりかえっこするのか、想像するのも楽しそうだが、さとうわきこさんの発想には、子どもたちも思わず真似したくなるような面白さがある上に、しかもそれをすればするほど、更にのめり込んでしまう魅力もある、シンプルだからこそ、より実感できるアイデアの素晴らしさがいい。


 ある日、ひよこが遊びに出掛けた先で会った、ねずみさんに、「なきごえ とりかえっこ しようよ」と呼びかけると、入れ替わるのは、「ぴよ」と「ちゅう」の鳴き声で、以後、ねずみは「ぴよぴよ」と、ひよこは「ちゅうちゅう」と鳴きながら先を行っては、また出会った動物ととりかえっこするので、この動物は、普段こういう鳴き声するのが当たり前だと思えば思うほど、そのずれた感覚が面白く、時にはそれが大きな力に変わることもある。

 そうした点から、動物の鳴き声というのは、それ自体の存在を強くアピールする名詞的な役割を持つ上に、言葉自体の持つ、見えない力の存在まで実感させられるように思われた、そんな不思議な神秘的効力は、まさに言霊そのものである。

 また、二俣英五郎さんの絵には、のどかで懐かしい和の雰囲気と、横長の絵本のサイズから、絵巻物のような印象を抱き(所々、二本足になっているのが鳥獣人物戯画のカラー版といった感じで)、その中で動物たちや自然の風景が、ほのかに光を纏ったように見える描写に、絵本全体にほんわかとした温かみが宿っているようにも思われた親しみやすさは、ページを捲る度に増えていく、右下の、コマ送りされたようなひよこの絵も同様で、本編と共についつい見てしまう。

 そして、本編は本編で、ひよこをメインに展開しながらも、他のとりかえっこした動物たちのその後も気になってしまう、そんなサブストーリーを想像してみるのも楽しそうな本書は、『第1回絵本にっぽん賞』受賞と、記念すべき絵本でもあり、その鳴き声だけに着目したシンプルさと、読み聞かせというよりは必要最小限の言葉だけで、後は絵が状況を語りながら、更に想像力次第で楽しみ方は如何ようにも変わる、そんな絵本を、今の子どもたちはどのように感じ取るのか、気になるところ。

 ちなみに、「絵本にっぽん賞」は、日本国内で出版された絵本を対象として、1978年から92年まで続き、一度途切れたものの、1995年からは、「日本絵本賞」がそれを引き継ぐ形で、公益社団法人全国学校図書館協議会が実施しており、今年も(第29回)発表されると思われます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本
感想投稿日 : 2024年4月30日
読了日 : 2024年4月30日
本棚登録日 : 2024年4月30日

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