まあちゃんのまほう

  • 福音館書店 (2003年4月10日発売)
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本棚登録 : 724
感想 : 49
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 本書は、「まあちゃんのながいかみ(1989年)」の、続編の位置付けではあるものの(1992年)、ストーリーにそうした関連性はなく、どちらから読んでも問題なく楽しめるし、前作とは趣旨が全く異なる点にも、「たかどのほうこ(高楼方子)」さん特有の、決して二番煎じはせず、常に新しいものを求め続ける姿勢を感じさせられました。

 ちなみに、今回のまあちゃんは破天荒では無く、いたって素直な女の子といった感じだが、そんな素直すぎる様子も、前作を読んだ私からすれば、一見して、そんなバカなと思うことすら信じてしまう、その裏には、まあちゃんの「世の中、何だって起こり得るんだよ」といった、想像力が旺盛であるからこそ、ありとあらゆる可能性を信じたい純粋さがあるのだと思うと、ちょっといじらしくなってくるが、しかし、ここではそんな純粋さが、ある出会いをもたらしてくれたのかもしれないと思うと、なんでも素直にやってみるもんだねぇ。


 ある日、庭の木にもたれ座って、まあちゃんが読んでいたのは「まほうのほん」で、そこには、こんなことが書いてあった。

『しっているひとを なにかの どうぶつに かえてみましょう。
でも とても むずかしいので、たいてい しっぱいします』

 なに、この本の抜け目のなさ(笑)。

 確かに、身近な人が動物に変われば、子どもにとっては面白いこと間違いないだろうから、もうこの本に釘付けになるだろうし、しかも、それが叶わなかった時のフォローまで、ちゃんと掲載している、この万全さ。というか、なるわけないだろなんて思ってしまう子どももいるかもしれないが、さっそくまあちゃんは、お母さんで試しだしたぞ。

 そうしたら・・・なんと、本当にタヌキに変身してしまった! 嘘、なんで? びっくり! しかも元に戻すおまじないを唱えたら、ちゃんとお母さんに戻ったから、これはいよいよ、破天荒が行き過ぎて、魔法使いになってしまったということで、まあちゃんの凄さ、ここに極まれりと感じたが・・・。


 今回のまあちゃんの絵本で、私が強く実感したのは、たかどのさん自身の、「まほうのほん」の内容のような『抜け目のなさ』であり、一見「?」と思える魔法のような事象にも実はタネがあり、それは裏を返せば、たかどのさんの、芸の細かさ、素晴らしさとも思うのですがね。

 まずは、まあちゃんが本を読んでいる、この最初の場面、よくよく見てみると、もう既におりまして(笑)、それは次の場面で、より接近しており、実はとても巧妙な知能犯であることが分かります。

 そして、肝心の変身の場面ですが、まあちゃんはおまじないを唱えているとき、目をつぶっていて、その変身前と変身後の違いは、家のドアが開いているか、閉まっているかであることから推理すると・・・そういうことでして、更に、そこからお母さんに戻るのも、よくよく観察すると、何かが覗いて見えるようで、これは本当に芸が細かいし、その後も、家の角から少しだけスカートの裾を覗かせている場面もあったりと、一瞬、「あれっ?」と思うような入れ替わりの場面に於いても、ちゃんと絵で納得させてくれる、こうした描き方には、おそらく、子ども自身が不思議に思ったことに対して、「あ、わかった!」と、自ら納得できるような達成感も含ませているのではないかと思えてきて、こうした描き方には、子どもを育む、ひとつの姿勢を垣間見られたようで、とても印象深いものがありました。

 それから、知能犯と書いたが、決して悪気があったわけではなく、ただ単に、まあちゃんと遊びたかっただけなのだと感じ、それとはつゆ知らず、まあちゃんはまあちゃんで、普段お母さんから、これはやってはいけませんと言われそうなことばかりを、思う存分、堪能できた満足感でいっぱいとなることで、絵本を読む子どもにとっては、魔法のタネ明かしに挑戦する楽しさ、プラス、普段なかなか出来ないこと(というか、させてもらえないこと)を絵本の中で発散できるといった、まさにおもいっきり学んで遊べる、絵本ならではの楽しさを存分に味わえる、たかどのさんの抜け目のない心尽くしです。

 なんて書いといて、実は表紙の絵に全ての鍵があるんですけどね(笑) でも、これだけでストーリーの内容まで分かる方は、もしかしたら、本物の魔法使いなのかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本
感想投稿日 : 2023年10月30日
読了日 : 2023年10月30日
本棚登録日 : 2023年10月30日

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