勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2020年3月10日発売)
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感想 : 38
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勉強とは「自己破壊である」という。「場の空気」をあえて無視した先に学びや発見がある。

「なんでやねん!」「それ、ホンマに必要?」と根拠(Why?)を問うツッコミが千葉さんの言うところの「アイロニー」で、変な見方をあえてしてポンポンとボケにボケを重ねるのが「ユーモア」だそうな。つまり本書は「勉強する」を哲学的なアプローチで解説し直そうと試みている。そう言えば、松本人志と島田紳助が「哲学」という本を出していた。「お笑い」と哲学は、実はそのアプローチの仕方であったり、思考に思考を重ねて新たな境地を披露する志向が似ている。

サブタイトルの「来るべきバカ」にも長い説明が必要だ。根拠を問い続けるアイロニー(縦への動き)は禅問答のようにキリがない。だからどこかで横展開のユーモアに転じるわけだが、その横方向のボケ(連想)もボケ倒すと誰もついて来れない。つまり「そろそろこの辺でやめよか」とする力が働く。これを千葉さんは「こだわり」と呼ぶ。というのも、このツッコミの深さとボケの広さの「ほどほど感」にその人の好みやしばしば享楽的な性癖が絡むため、「享楽的なこだわり」と表している。
長い前置きになったが、本書は「勉強する」を哲学的に説明するにあたってまず言語論から出発し、享楽論に着地する。この「享楽的なこだわり」こそが「自分の中のバカな部分」であると説く。学ぶことでこの「自分のバカな部分」が変質してまた「別のバカ」になり直すというのだ。だから「来るべきバカ」のための本、という。

本書は「勉強」という行為を分析するだけでも大変なのに、これを哲学的にアプローチするために用語をあれこれ個別に説明する手間を挟んでいる。これが読者を突き落としまくってる。例えるなら「化学変化」を説明するためにわざわざ分子物理学などより高度な知識で中学生に説明を試みるようなものだ。

千葉さんの専門であるフランス現代哲学でいうところの「秩序と逸脱」の二項対立を指している。この逸脱しようとする行為が勉強なんだと理解した。この辺りの詳細は千葉さんの「現代思想入門」に譲るが、この本もツッコミとボケの範囲が広大過ぎて、概念の解像度が高すぎて僕は何度もついていけなくなって突き落とされました。
https://booklog.jp/users/kuwataka/archives/1/B09V1134H7
それでも千葉さんの文章は、「享楽的なこだわり」は好きなんだなぁ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年1月15日
読了日 : 2023年1月14日
本棚登録日 : 2020年8月31日

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