オン・ザ・ロード (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-1)

  • 河出書房新社 (2007年11月9日発売)
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感想 : 81
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昔、『路上』という翻訳で、何度か読んでは途中で投げ出し、また読んでは投げ出し、結局、最後までざっと目を通しただけで、何が面白いのか、分からなかった。

このたび、新しい翻訳『オン・ザ・ロード』で、もう一度、最初っから最後までじっくりと読んでやろうと思いたち、図書館で文庫本借りて気合入れて読み始めたんだけど、途中で、単行本があったことに気づき、そちらをまた借りて、続きをドンドン読んでいった。

1部2部と、どうでもいい登場人物が次々に出てきて、どうでもいい話が延々と続き、退屈でクジけそうになったけど、アメリカの地図を何度も見て、移動の経路をたどることで乗り切った。
あと、出版社のページに載ってた登場人物の関係図も見て頭の中を整理した。
http://www.kawade.co.jp/ontheroad/

はじめて『路上』を読んだ時、オレはニューヨークに行ったり、ボストンやワシントンやカナダをウロウロしたことはあったけど、東海岸だけだった。
でも、その後、フロリダにも行ったし、カナダの西海岸からサンフランシスコ、LA、を経由して大陸を横断し、ハイウェイをぶっ飛ばして砂漠みたいな景色も見たし、ラスベガスとか寄りつつ、ニューヨークまで移動したので、この物語の「移動してゆくカンジ」は、以前より、リアルに感じられるようになった。

3部に入ってからは、ちょっとだけ面白くなってきて、読むスピードが上がってきた。まるでディーンの運転する車のメチャクチャなドライヴみたいに。
ヒマさえあれば、本を開いて、一気に読み進めた。

でも、4部、5部と続くにつれ「えー、まだあるのー?」って、のけぞった。

それでも諦めず読み続けた。
そうして、なんとか、かろうじて、最後までたどりつけた・・・。
長かったー・・・。
それだけに達成感はある・・・。長い旅を終えたように。

だけど、エンディングも、「え?これで終わり?」みたいなアッケなかった。

ビートニクの金字塔、不滅の名作、永遠の青春の書・・・いろんな人が絶賛しまくってるんだけど・・・・。

・・・・・・どこがおもしろいの・・・・・・・?
つーか、みんなホントにそう思ってんの???

オレはケルアックの詩は好きなんだけど。
『SWITCH』という雑誌に、アメリカの広大なロードのモノクロームの写真が載ってて、そこに彼の詩の一部が乗ってて、一目見て好きになった。


I clearly saw   ぼくははっきりと見た 
the skelton underneath  骸骨を 
all this show of personality  個性をひけらかす上っ面の下に
what is left  何が残されているのか 
of man and all his pride  人とその全ての誇りの下に  
・・・・・」
それで、他の詩も見てみたんだけど、どれも良くて好きになった。

訳者あとがきで書いてあったけど、ケルアックの言葉は尖がってる。
たとえば、on the road っていうのは、単なる『路上』、道路の上、という日本語の言葉とは違って、「旅行中」とか「家出中」とか「途上にある」などを意味する熟語で、「移動している」というニュアンスの言葉なのだそうだ。

だから、この題名こそ、まさに移動し続ける登場人物を言い表していることになる。
驚くべきことに、ギンズバーグの"Howl"も、バロウズの"Naked lunch"も、ケルアックがつけたんだってー。
すげー。

そもそもビート・ジェネレーションという呼び名自体、ケルアックの言葉だ。
beatは「叩きのめされた」という意味だし、「やっつける」という意味もあり、ジャズやロックのビートでもあるし、beatific「至福の/聖者のような」でもあり、beatitude「至福/無上の幸福/キリストが山上の垂訓の中で説いた幸福」という意味まである。

短い言葉に、これだけ深い意味を含ませてしまうなんて。まるで俳句だ。
だから、ケルアックの詩はスゴイ。

ジャズがいつも鳴ってて、ウィスキーで酔っ払ってて、路上にあって、ブッダの瞑想や、カトリックの祈りがあり、天使が飛んでいたり、打ちのめされていたり、至福があったり、聖者のようだったりする。

それなのに、彼の小説のおもしろさは、オレには、分からないんだよなー。
いくつか小説を持ってて、本棚に並んでるんだけどさー。

多くの人が絶賛してる不朽の名作だっていうのに、オレにとっては、なぜ面白くないのか?
考えてみたんだけど・・・・。

主人公のサル・パラダイスがつまんない。
彼の友人のディーンはメチャクチャやってるんだけど、主人公が真面目な性格だから、話としてイマイチ盛り上がってないんじゃないだろうか?
サルのモデルは作者ケルアックなんだけど、彼は大人しい性格だったという。そういうカンジが出てる。

オレは、ギンズバーグの詩とか、バロウズの小説を先に読んだから、ネイキッドランチとか映画でも見たし、本当にもう気が狂ってて、ヤク中毒で、クィアーで、人殺しまでやってて、マジでもうシャレにならんと思った・・・。

ティモシー・リアリーの薬物実験で被験者になって、あり得ないくらいラリって、おかしくなってるギンズバーグとか・・・。
それに比べると、ケルアックがメキシコでマリファナやって気持ち良くなったくらいでは、だからどうした?としか思えない。
小学生の夏休みの旅行絵日記みたいに見えてしまう。

この小説で、とくに心に残ったのは、この部分だった。
「オールナイトの映画に来ている連中は終わっているやつらだった。アラバマから噂につられて車の工場で働くためにやってきたくたくたになった黒人、年寄りの白人浮浪者、さんざ放浪した末に酒浸りになった若い長髪の風来坊、売春婦やふつうのカップルやすることもなければ行くところもなくてだれも信じられない主婦。デトロイト中を篩いにかけても、これほど打ちひしがれた特選級の屑は集められないだろう。」

2012年、ブラジル人の映画監督が、これを映画化して、カンヌでも上映されたそうだ。もう日本で公開されたのかな?・・・・・・公開されたら、ぜひ、映画館で見たい。
映画の評判は、カンヌでは、今イチだったみたい。
なんでも、オン・ザ・ロードという題名どおり、アメリカの広大なハイウェイを行ったり来たりする小説なのに、映画では、セックスとドラッグのことばかり描いていて、そこが小説と違い過ぎてて、不評だったとか。

それでも、せっかく、小説をこれほど気合いれて読破したんだから、映画も見たい。
読んだ時はそんなに好きじゃなかったけど、後になってから、だんだん好きになっていく本もあるし。
『オン・ザ・ロード』も、これから好きになるのかもしれない。
この本、図書館に返したら、買おうかな。表紙も好きだし。
映画が楽しみだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説など
感想投稿日 : 2013年2月20日
読了日 : 2013年2月20日
本棚登録日 : 2013年2月20日

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コメント 1件

マヤ@文学淑女さんのコメント
2017/09/20

レビュー興味深く拝見しました。私はアメリカに行ったことがなく、ギンズバーグやバロウズも知らなくて。でもサルが一歩引いてるのは文章からなんとなく感じられて、ディーンは結局ひとりぼっちなんだなと。作家の冷静な目というんでしょうか。結局は人間はひとりぼっちなのかもしれませんけど、大陸を一緒に横断したりすると普通の友情とは別な連帯感が生まれるんですかね。私にもこの作品の素晴らしさは正直よくわかりませんでした。

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