“言いかけて兄は、不意に口をつぐんだ。濃い茶色の両眼を、またたきもさせず宙に見張って、じっと息をつめている。
「どうしたの?にいさん。」
「わかったよ。わかった。きっとそうなんだ。」
兄は笑いだした。
「こんなことがわからなかったなんて――。悦子、ちょっと行って民ちゃんを呼んで来てくれないか。」
「民ちゃんを?」
「彼女に聞きたいことがあるんだ。僕より悦子の方がいい。早く行っておいでよ。」”
あっさりと読める。
見た目凸凹な主人公二人が楽しい。
“「どうですか、事件。」
警部はマユをしかめた。その耳もとに口を寄せて、兄は一言二言ささやいた。警部の顔には、激しい驚きと緊張の色が現われた。ふたりの真剣な表情に気押されて、私は五六歩離れた所にたたずんでいた。長いひそひそ話が終ると、ふたりは初めて私を手招きし、連れだって歩きだした。
クリーニング店の連中は、びっくりした面持で、私たち三人を迎えた。
「やあ、顔がそろいましたな。皆さんは、ここにいてください。わたしはちょっと、フロがまを見せてもらいます。」
家の者にうむを言わせず、警部は奥へはいって行った。兄は黙って立っていたが、その目が、時々ちらりと亮さんの横顔を見やるのを、私は見逃さなかった。杉本警部は、五分ほどで出て来た。
「では、事件について検討したいと考えますから、四人の男性は奥の間へ集まってください。御婦人方は、ここで待っていただくことにして――」
「わたしもここにいなければならないんですか?」
私は直ちに不平を唱えた。これでも事件解決のために、幾分の尽力はして来たつもりなのに、仲間はずれとは承服できない。兄がそばから、
「妹だけ、入れてもらえませんか。こいつは御婦人方なんてがらじゃないですよ。」
と言うと、警部は快く承諾してくれた。”
- 感想投稿日 : 2011年3月25日
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- 本棚登録日 : 2011年3月25日
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