ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを。 (一迅社文庫アイリス こ 3-1)

著者 :
  • 一迅社 (2008年10月20日発売)
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3

“「お前は……っ、何もできない!それはお前の体じゃない。何が魔法だ。何が約束だ!それはベファーナの体だ。ベファーナの力だ!お前はなんにもできてない。それなのに俺を使うのか、俺を人に渡すのか!」
その通りだ。どうして否定できるだろう。ルナは震える体を抱いた。
「お前になんの権利があるんだ。なんでお前が俺を売るんだ!馬鹿にするな!俺はお前のペットじゃない。お前なんかこれっぽっちも好きじゃない。ベファーナとは違う。お前はベファーナなんかじゃない、ルナでもない。お前は、なんでもないんだ!」
喉が裂けそうなほどに叫ぶと、後はただ沈黙だけが部屋を満たした。
ノーチェは荒ぐ息を抑え、押し殺した声で吐く。
「お前も、俺を捨てるのか」”

ストーリーが結構良かった。
偉大な魔女と体と靴とを交換されてしまう平凡でおどおどとした少女。
彼女は元の体に帰ることができるのか。
“これ以上の幸せはないと感じた夜に”と最後にまたこの文章が出てきて、はっと気付く感じ。
ノーチェと彼女の仲が羨ましい。
でもこういうのを読むと、始まりはどこだろうって思ってしまう。

“「なんて可哀想な子!みじめで、間抜けで、ちっとも上手く歩けちゃいない」
彼女は少女に手を伸ばす。高くから見下ろす目が、一瞬、慈しみの色に緩んだ。
「大丈夫。あたしがあなたを起こしてあげる」
囁いた口は奇妙に歪み、生ぬるい息がもれる。
「楽しみねぇ。ただでさえ不幸なあの子をふんだんに苦しめて、突き落として踏みつけて、ぐしゃぐしゃに泣かせてあげよう。一体どんな顔をするのか、考えただけでゾクゾクするわ」
真紅の爪で水盤に線を引く。その道筋は少女の頭上から街路を辿り、角を曲がって一軒の店に繋がれた。
ぶら下げられた看板は踊り子の靴の形だ。示された道のりを行く少女に顔を近づけて、うっとりと囁きかける。
「さぁ、その店よ。そう、そこに入りなさい……」
彼女の言葉そのままに、少女は靴屋の扉を開けた。
水鏡の中で少女は店員と話をしている。まだ、一人で買物をすることに慣れていないせいで、挙動はあまりにもぎこちない。
彼女は笑った。いつかの自分の姿を見て。
「安心しなさい。あなたは絶対うまくやれるわ」”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫本
感想投稿日 : 2010年9月23日
読了日 : -
本棚登録日 : 2010年9月23日

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