悲劇の名門 團十郎十二代 (文春新書 805)

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年4月20日発売)
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感想 : 8
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クラシック音楽評論家として名を聞いていた人が、よもや探し求めていた團十郎の列伝を書いていようとは。
著者みずからも言うように、歌舞伎よりは歴史に振った内容。舞台を観たことはないが歴史好きという、私のような者には願ってもない本だった。逆に、芝居は好きだが舞台を下りた役者には興味もないという人には、期待はずれとなるのかもしれない。
初代から当代に至るまで、歴代の團十郎の生涯と事績を丹念に追って読みごたえがある。一般の歴史や社会の動きにも触れており、時代の中に息づく血脈を実感できる。著者は(私は浅学にして知らなかったのだが)クラシックと同じくらい歌舞伎をメインフィールドにしているそうで、調べてみればそれ関係の著作も多い。そんな人が、「初代生誕350周年というのに」特に何のイベントもないことを惜しみ、「市川家に頼まれたわけではないが」書いたというだけあって、その丁寧な仕事ぶりには何よりも愛がある。
歌舞伎愛好家だけあって、役者として大成したわけではない贈十代についてはあっさりめだが、それでも現時点でこれ以上のものは望めないだろう。團十郎空位、おまけに戦後の混乱期における市川家当主としての功績にもきちんと言及されており、まずは申し分ないと思われる。
強いて言うなら、系図を各章の扉にぶつ切りで掲載する方式は、やや見にくい。また、代が下るにつれて他の名跡との絡みも複雑化するので、できれば系図はそれらも網羅したものを、独立して付けてほしかった。
「十一代目團十郎と六代目歌右衛門 悲劇の『神』と孤高の『女帝』」なる著書があるらしいので、次はこれを読んでみたいと思った。


2015/5/16〜5/17読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 芸術・芸能・教養
感想投稿日 : 2015年5月17日
読了日 : 2015年5月17日
本棚登録日 : 2015年5月17日

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