わたしの3・11 あの日から始まる今日

  • 毎日新聞社 (2011年5月20日発売)
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感想 : 32

3月に入り、東日本大震災1周年が近づいてきたため、改めて事実を見つめ直そうと手に取った本。
茂木氏が音頭を取り、各界の著名人16名が寄稿しています。
どのように震災を迎え、避難したのかが、仕事の延長上気になり、ここ1年間、人と会うたびに聞いてきました。
寄稿者たちがそれぞれに体験した被災状況が語られます。

決してお涙ちょうだいものではありませんが、前書きの段階で、記憶とシンクロして涙が止まらなくなりました。
出勤途中の電車の中で、一人で泣いていたので、そばにいる人が気付いてはっとしたそぶりを見せましたが、手に持つ本のタイトルで(ああ)と納得したような空気が漂いました。
見知らぬ人との忘れ得ぬ共有感覚になっていることを肌で感じました。

どうしても信じられないほどのつらい記憶として、悲しみと涙が引き起こされてしまいますが、今回、直接被災したわけではない私が泣いたところで、なにも事態は変わらないと思います。
寄稿者たちも、それぞれに自分のできることを考え、自らの非力さに悩み苦しんでいます。

驚くべきは、この本が昨年5月、震災から2か月後に出ているということ。
寄稿者たちは震災後一か月弱の段階で寄稿していることになります。
大災害の心理的混乱を消化できないまま、文章を書くことになったとまどいが、文面から伝わってきます。

書くことしかできないという人、言葉による表現の限界に苦しむ人、発した言葉がセンシティブになった世の中に曲解されて非難を受けた人など、さまざま。
演奏家やお笑いの人は、自分の芸が今すぐに被災者を救うものではないことを悲しんでいます。
何度考えても、あの大震災で、程度の差はあっても、全ての日本人の心が傷ついたと思わずにはいられません。

それぞれの道の専門家の文章には、私が知らないこともいろいろと載っていました。
ライブドアの堀江氏は「Gmailは核戦争にも耐えられるように設計されたネットで、このような未曾有の大災害時には、戦争用に開発されたものが大活躍する」と書いていました。

ノンフィクション作家の石井光太氏は「日本を勇気づける記事は勝算は去れても売り上げにはつながらず、危険をあおるような記事の方が批判されても売れた」と、ショッキングな事実を打ち明けています。

上杉隆氏の文章には、東京電力と政府の担当者が情報隠蔽を行ったことが、実名公表と共に記載されており、驚くとともに氏の覚悟の深さを見ました。

気仙沼でのロケ中に被災したサンドイッチマン。
芸人としての本職を封印して、ただひたすら事実を伝えようとする二人の文章それぞれに、肌を刺すようなリアルさがありました。

阪神淡路大震災はM6.9、東日本大震災はM9で、阪神淡路大震災の1400倍のエネルギーだったことも知りました。

震災後すぐに被災地に飛んだボランティアネットワークの人が、被災地の状況を「語弊を恐れずに言えば、広島の原爆投下後の焼野原が、福島の北部から青森の南部の海岸線までひたすら続いているような状況」と表現していることに、胸が詰まりました。

津波で全てを奪い去った自然の猛威ですが、こんな大災害を受けても、地元では海を悪くいう人は誰一人いないというのも印象的でした。
さらに、被災地で窃盗を働く人のことも「どうしようもないから仕方なくやっているのではないか」と、やはり責めないのだそうです。
命ギリギリのところに立たされても、日本人の優しさが輝いているところに、新たな涙が出てきました。

今後ずっと、誰もがこの痛みをかかえ、共有していくことが、復興に繋がる道となるため、たとえ被災地から離れていようとも、忘れずにいたいと思います。
その日は一日中、仕事中瞼が重くて泣き疲れていました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2012年3月7日
読了日 : 2012年3月7日
本棚登録日 : 2012年3月7日

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