鬼太郎と行く妖怪道五十三次

著者 :
  • やのまん (2008年4月1日発売)
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本棚登録 : 76
感想 : 13

アダチ版画研究所を訪れた折、展示されていたので、後日読んでみました。
水木プロダクションと共に、この研究所が後援している本です。

実は子供の時から鬼太郎が大の苦手。
ただ、東海道五十三次をわかりやすく紹介しているのであればとトラウマ克服に努めます。

広重の『東海道五十三次』になぞらえて、鬼太郎が東海道をたどって江戸から京都まで行くというコンセプトのもと、浮世絵一作一作に合わせて、水木流の作品が同時紹介されています。
東海道には妖怪300匹が跋扈しているということで、どこを歩いても辺りには妖怪の気配が漂っています。

背景はオリジナルと一緒。人物が妖怪になっていたり、少しひねりがあるものとなっています。
水木氏は、押印まで広重の真似をして作っているというこだわりぶり。
妖怪道の絵が、妙にしっくりと合っていることに驚きました。
そういえば、妖怪たちには、江戸時代の景色や風俗がピッタリ合っているんでしたね。

当時、江戸から京都まで13泊14日かかったとのこと。
今は2時間で行けますから、一世一代の長旅だったわけですね。

『東海道五十三次』は、広重38歳の作品。
彼も、宿場町を自ら全て訪れたからこそ、作品に残せたわけで、当時の浮世絵画家は、健脚であることも必須だったのでしょう。

オリジナルを単純にトレースしただけではなく、きちんと妖怪ワールドに置き換えている、水木氏の自由なイマジネーションは、見ていて楽しいです。
とはいえ、描かれている妖怪は、かなりおそろしいものも登場します。
さまざまな妖怪たちが登場する世界に、『千と千尋の神隠し』を連想しました。

広重は、ところどころに自分を連想させるものを書き込んでいますが、水木氏も、本人を絵の中に登場させて、妖怪娘に足裏を舐めさせたりしています。
諧謔心が、二人共通しているのかもしれません。

鬼太郎の相棒、ねずみ男も登場し、東海道が化け物であふれるようになったのは、ねずみ男のせいだったことがわかります。
きちんとストーリーができているのです。
芦ノ湖は、もともと巨人の足跡だという伝説があるそうです。足が芦になったのでしょうか。

「ぶるぶる」「えんえんら」「あぶみぐち」「みかりばあ」「ひだるかみ」など、さっぱりわからない妖怪がどんどん出てきて、知識のなさを痛感しました。
さすがは水木ワールド、とにかくたくさんの妖怪が登場します。ついていけずにいたら、巻末に妖怪インデックスがついていたので、助かりました。

初めは、いちいち動揺していますが、これだけ妖怪がそろっていると壮観です。
見慣れてくると、むしろユーモラスに思えてきて、親しみも感じられてくるものです。

鬼太郎は、妖怪のリーダーなのかと勝手に思っていましたが、実は正義の味方だったんですね。
鬼太郎は妖気が充満していると眠れないなんて、妖怪らしからぬ繊細さだなと思いました。

「御湯」では、留め女に引き留められる旅人の絵が描かれています。
広重が描いているのはやじさんきたさんだそうで、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』とも関係していることがわかりました。

私は、表紙にもなっている「箱根」の絵が一番気に入りましたが、それにしても、神奈川県内の宿を過ぎると一気に場所に疎くなってしまうものだと再認識しました。
逆に「阪ノ下」は、見えないものが見えてきそうな絵で、すごくこわかったです。

水木氏は、日本一の棺桶職人の風刺漫画「一番病」を書いているとのことで、こちらも気になりました。
かなり本格的な仕上がりになっており、広重の『東海道五十三次』と水木ワールドを存分に楽しめる、贅沢な一冊となっています。
どちらか好きな人、どちらも好きな人、双方ともに楽しめます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 地域研究・旅
感想投稿日 : 2012年1月10日
読了日 : 2012年1月10日
本棚登録日 : 2012年1月10日

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