明治のお嬢さま (角川選書 441)

著者 :
  • KADOKAWA/角川学芸出版 (2008年12月10日発売)
3.47
  • (8)
  • (24)
  • (33)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 228
感想 : 31

明治後期の上流階級の若い女性、具体的には1880-1890年代生まれで明治末頃までに結婚した女性の生活を、新聞や雑誌から読み解いた本。
彼女たちの生活では、結婚が最重要な目標だった。冒頭で紹介される、結婚を「あがり」にした双六が象徴的。10代後半は適齢期、学校は嫁選びの場。結婚で中退することが珍しくないため「入学時の人数の何分の一しか、卒業生はいなかったのである(p50)」。
女性たちは、より良い縁に選ばれるべく美容に工夫を凝らし、着物やアクセサリーを買う(第7章)。色白でほっそりした病的な美が理想とされた(p41)。では美人が一番得かといえば、一方では美人コンテスト入賞を不品行と見なされ退学処分になった1908年の事件(p53)もある。つまり本音とは別に、公の場で美人を競い合うこと自体は芸妓など玄人の女性のすることで、はしたないとする考え方があったことを著者は指摘する。
つまりこの時代、女性は素人と玄人にはっきり分断されていた。本書は前者のうちでも特殊な階級の女性をテーマとしているため「くろうと」側の知識には深入りしないものの、第4章で触れられる妻妾事情が、ある意味では両者の接点だといえる。
そういえば以前、遊郭に関する本([ https://booklog.jp/item/1/4391108895 ]と思うが、確かでない)で読んだ逸話を思い出した。上流階級の男性が、婚約者とのデートの後、高まった情熱を解消するため遊郭へ来る。婚約者は良家の令嬢だから婚前にみだりがわしいことはできないというモラルの一方で、玄人女性との関係はモラルに反しないのだ。
そういう社会で、女性かつ上流階級という二重の規範に縛られて生きた「お嬢さま」の生活は、現代人の目から見るととんでもなく窮屈で、羨ましい気持ちは起きない。けれども水中にいる魚が水の存在に気づかないように、当事者にはそれが当たり前で、その中でも現代の女性と同じように、メイクや食べ物や流行の話題にはしゃいでいたのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月23日
読了日 : 2021年9月5日
本棚登録日 : 2021年9月5日

みんなの感想をみる

ツイートする