ベトナム戦争の現場で取材して書かれた小説。
戦争の苛烈さと、義の無い戦争への矛盾と、傍観者であることの後ろめたさと、ねっとりと重い現地の空気。著者はあくまで非戦闘員なのだが、戦争を見る目には、自国の敗戦に立ち会った世代ならではの骨太さがある。
語彙が豊かだ。しばしば知らない単語に出会う。漢字だから意味の見当はつくけれど、こういう語彙を自在に操れるのは良いなと思う。
開高健を読むのは初めてだが、それでもこれは超重量級の作品だと分かる迫力がある。残念なことに自分が疲れているときだったので、十分消化できた気がしないけれど。
「肋骨の内側を音たてておちていくものがあった。銃でもナイフでもなく人は殺せた。/私が寝るだけで二人の兵が死ぬ。(p74)」
「チャンにお守りをやったのは失敗だったかもしれない。彼を濡らしてしまったのはよくなかった。たとえあてどなくても憎悪か冷罵かを蒔くべきであった。恐怖は人を注意深くさせるから戸外では有用だが、憐憫は糖衣された毒だ。それは癩のようにじりじりと人を軟らかくし、崩壊させ、腐敗させる。うしろをふり向いたときに彼は死ぬのだ。(p246)」
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年12月13日
- 読了日 : 2020年12月12日
- 本棚登録日 : 2020年11月26日
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