またの名をグレイス 下

  • 岩波書店 (2008年5月29日発売)
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19世紀カナダで、16歳のときに働いていた屋敷の主人と女中頭の殺害に関与した罪で有罪判決を受け、30年間服役した実在の女性、グレイス・マークスの事件に題をとった歴史小説。しかし扱っている主題は実に今日的だ。
グレイスが失った事件の記憶を引き出し、彼女の正体を探ろうとする、野心家の若き心理学者。しかし彼女が語れば語るほど、その姿はいっそう深い謎に包まれていくようだ。彼女は彼に「真実」を分かち合おうとしているのか、それとも、飢えた犬に餌をあたえるように、聞き手が望む物語を作りだしているのか。
強固な身分制と抑圧的な社会規範の下で生きてきた最下層の女性が、彼女を救済しようとする人々の欲望に黙って身をまかせつつ垣間見せる用心深さと大胆さには、どきりとさせられる。そして晩年のグレイスの穏やかな語りの中から浮かび上がる、死者たちへの激しく親密な感情。最後まで度肝を抜かれつつ、人の心の底知れなさに思いを馳せる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外国文学
感想投稿日 : 2011年10月26日
読了日 : 2011年10月25日
本棚登録日 : 2011年10月25日

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