環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態

  • 文藝春秋 (2003年6月27日発売)
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 環境についての「定番の話」といえば。

・世界はどんどん砂漠化している。アマゾンの熱帯雨林はすごい勢いでなくなっている。
・地球環境の悪化であらゆる生物種が危機に瀕している。毎年4万種もの絶滅が起こっている
・地球温暖化で日本でもマラリアが風土病になる。海面があがって世界中大洪水!
・世界の海洋はタンカーの事故で石油をまきちらして汚されまくっている
・このままだと石油がなくなって世界がパニックになる

 ……これらが、いかにあやしいリクツの上に築かれているか。おおまかにいえばこの本は、こういう「イメージ」だけで環境問題を語るのがいかに危険で、いかに無駄が多いかっていうことが書いてある。
 たとえば、「豊かな生活をすればするほど環境に害である」ってイメージあるでしょ。ところが。石油に依存するよりも石炭に依存する方がずーっと空気を汚す。豊かになるにつれてどんどん使うエネルギー量は増えているにもかかわらず、技術革新によってエネルギー効率が上がっているから大気汚染は実際には改善する一方だ。そもそもどうして石炭を使うようになったかと言えば、ヨーロッパが薪を得るために森林を根こそぎ切り倒してしまったからだし……。つまりは、ここのところ環境は「ずーっとよくなり続けている」んだってば、ということをこの本は冷静にデータを出して示している。そのデータは「環境が危ない」派が使っているデータと出典が同じ!というおまけつきで。

 環境に悪いって言われると、別に「信じてる」わけじゃなくても、「そうなのか、大変だなぁ」くらいには思ってしまう。だから、それを防ぐために何かしなくちゃ、と言われると反対できない。でも、それが「どのくらいのコスト」で「どのくらいの利益」になるのかは、やっぱり考えないといかんでしょ。逆側からも言えるよね。有明海の干潟を干上がらせるかどうかは、ムツゴロウを守るためだけでなく、役人の尻をぬぐうためでもなく、やっぱり冷静な価値判断で決められなきゃ。この本と「環境リスク学」で、僕の環境問題についての態度は確実に変わったと思う。

 人類のシナリオは、破滅の道へ一直線じゃない。単純な楽観ではないけど、基本的に人類がいままでやってきたことに対して自信を持っていい。テクノロジーが進んだ結果、環境は改善に向かいつつある。「環境問題」に目をつり上げている人たちが「環境は悪くなる一方で、俺たちは地球と未来の子供たちに罪深いことばかりしていて、生活レベルを下げなくちゃもう取り返しがつかないよ」って自信喪失するようなことばっかり言っているのに比較して。

 冷静に考えよう。裏付けを求めよう。地球はかけがえがないけれど、同時に自分たち自身のくらしも考えられるはずだ。限りある資源を有効に使おう。未来を信じよう。ピース。

(以上、2004年の感想ですが、わりとそのままいけるかなぁと)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2013年5月29日
読了日 : 2004年12月4日
本棚登録日 : 2013年5月19日

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