陰獣 江戸川乱歩ベストセレクション (4) (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2008年11月22日発売)
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本棚登録 : 798
感想 : 51
4

「江戸川乱歩ベストセレクション4」
「陰獣」「蟲」の2本収録。
内容もさることながら、もうタイトルが妖しい。
江戸川乱歩の小説がたくさん、そして同じ作品が何度も映像化されている理由が読むととてもよく分かる。陰鬱で湿っていて、じわじわと何かが迫り来るような独特な雰囲気が、映像化へと掻き立てられるのだと思う。

「陰獣」は探偵小説を書く主人公の寒川が、資産家夫人の静子という女から「かつて捨てた男から脅迫状が届いた」と助けを求められるところから物語が始まる。差出人は人気探偵作家の大江春泥。静子の美しさと春泥への興味から、寒川は出来るだけの助力を約束してしまう。
そんなある日、静子の夫である小山田の変死体が発見される。

静子の肩口には謎のミミズ腫れがあり、そのグロテスクな様に寒川が妙に惹かれるという描写がある。そのミミズ腫れの理由や静子の不思議な色香、そして追いかけても逃げていく陽炎のような犯人像。
ラストが蛇足だとも言われている作品らしいけれど、はっきりと答えが出ないままの終焉がこの作品の怪しさの余韻になっていて、私は嫌いではない終わり方だった。

そして「蟲」
極端な人見知りである柾木という男が、かつての同級生で今や売れっ子女優となった木下芙蓉を愛し、独占欲に駆られてひとつの事件を起こしてしまうのだが、「陰獣」以上に妖しさ満点。
美しいものもいつしか朽ちていく。その事実に耐えられなかった柾木が起こした行動とは。

江戸川乱歩の作品は、ミステリでもその謎を解くところがいちばんの醍醐味ではないように思う。自然と目に浮かんでくる情景は、自分なりの映画になっている気さえする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年8月31日
読了日 : 2021年8月31日
本棚登録日 : 2021年8月31日

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