墜落現場 遺された人たち (講談社+α文庫)

著者 :
  • 講談社 (2005年7月21日発売)
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サブタイトル:御巣鷹山、日航機123便の真実

昭和60年8月12日に発生した日航機123便墜落事故とその後、関わった幾多の人々を当時検死官としてこの事故に触れた著者が取材して綴ったノンフィクション。

事故から今年で30年ということもあり、事故が起きた8月である先月は特別この事故に関する特番が多かった。
私も改めてそのうちのいくつかを観て、一応知ってはいるもののその実知らないことが多すぎる、と思ってこの本を手に取ってみた。
本当は同じ著者の「墜落遺体」という本が先に出ているのだけど、本屋で両方手に取ってみて、今はこちらを読んでみようという気持ちで。

あとがきによると、のべ13万人もの人間がこの事故に関わっているとのこと。
この本に綴られていているのは主に、墜落現場から程近い町に住む消防団、消防士、警察、自衛隊、医者、看護師、葬儀社の人々、事故の目撃者、遺族など。
墜落現場や検死の壮絶さ、生存者の救出までに時間がかかりすぎたことに対する葛藤、生存者をマスコミから守るための病院側の苦労などが、実際関わった人の言葉を中心に書かれているからそれはもうリアルなのだけど、その中でも私がとりわけ印象に残ったのは、葬儀社の人々の苦労だった。
1000以上もの棺桶と、全国から250台以上の霊柩車を準備して、何の落ち度もなく現場で毎日ほとんど寝ずに立ち働いたというのに、日航の社員と間違われて遺族に罵倒されたり殴られたりした者もいたというくだりは胸が痛んだ。
恐らくそんな風に理不尽な思いをしながらも歯を食いしばって働き通した人々は数知れなくて、敬意を表する以外何も思えないほどだった。

520名もの方が亡くなり、助かったのは僅か4名。しかしその4名が、関わった人々にとっては大きな希望になったのだ。

遺体の描写は生々しく、目を覆いたくなる惨状、というのはまさにこのことなのだろうと思う。
綺麗なまま収容された遺体はほとんどなく、身体がばらばらに千切れたり肉片になった遺体を、警察や医者が数ヵ月もかけて照合していく。それは一人でも多くの遺体を遺族の元に帰したいという執念でしかない。

史上最悪の死者を出した航空機事故の現場の真実。
読んだあと、東日本大震災の時も同じ風に毎日闘った人々がたくさんいて、未だにその後遺症に苦しんでいる人もたくさんいるのだろうと想像した。
本当に頭の下がる思いだし、人間が持つ凄みも同時に感じた。

関わった人たちがいなくなる日はいつか来るわけだけど、忘れてはいけないし、そこで人々が感じたことを繋いでいかなければならない。
と、ありきたりながら強く思った。

自分は恥ずかしいくらい知らないことが多すぎるな、とよく思う。そんなときに教えてくれる本という存在に、今回も感謝した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2015年9月17日
読了日 : 2015年9月17日
本棚登録日 : 2015年9月17日

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