新装版 隣りの女 (文春文庫) (文春文庫 む 1-22)

著者 :
  • 文藝春秋 (2010年11月10日発売)
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感想 : 114
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どことなく空虚な香りのする5篇の短篇集。
内職をする平凡な主婦が飛び込んだニューヨークへの恋の逃避行を描いた表題作と、好きな人に見栄を張ってしまったことからその相手との関係が二転三転する「春が来た」がとくに印象に残った。
ちなみに「春が来た」は、飛行機事故で早逝した向田さんの絶筆作品らしい。
私はその時代に生きた人間ではないものの、こんな作品群を発表している最中に亡くなってしまったのがつくづく惜しいと感じてしまった。
それだけ読み物としてシンプルに面白い。
そして人間の深い業も感じる。
嫉妬と欲望、猜疑心、見栄、そういう感情からくる人の行動。良きにつけ悪しきにつけ、最初は小さかったそれがある日突然小さな爆発を起こすように人を行動に移させる。

「幸福」と「胡桃の部屋」は若い女が主人公で、偶然なのか何なのか、その父親がある意味とても素直に生きているがゆえにだらしない、という共通点がある。
そしてその娘である彼女たちは、素直には生きられていない。自分を抑えるふしがあるところは、父親の反面教師的な部分があるのだろうかと考えたりした。
そういうところもまた、業が深い。

向田さんの作品は、小説も随筆も、さらっとしていて読みやすい。小説は、複雑だけど明快、みたいな相反する感想を抱く。人を行動に走らせる複雑な感情を表現するのが巧いのだと思う。
業が深い女たちの世界。勝手に向田作品に抱いていたイメージは、そんなに外れていないのかも、と思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年3月16日
読了日 : 2020年3月16日
本棚登録日 : 2020年3月16日

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