自分という生き物とうまく付き合えなくて、自分でいることに窮屈さを覚える。
どうして自分はこんな風にしか生きられないのだろう。という自己嫌悪に陥った経験を持つ人は、持たない人よりも多く存在すると思う。
別の誰かになることは叶わない。それならばこの自分という厄介な生き物と、どう付き合っていけばいいのか。
そういった想いを抱えた登場人物たちが織り成す、5つの短編集。
美しい容姿に生まれたことを窮屈に感じている男子高校生や、女性という性に少なからず違和感を抱えながら生きてきた中年女性など、自分のコンプレックスが何であるかをはっきり認識している主人公もいれば、真面目すぎて物事をまっすぐに決め付けてしまうことを周りに疎まれながらも、自覚は出来ていない老年の男性が主人公の物語もある。
いずれにしてもどこか“上手く生きられない”人たちが主役であるところが、身近に感じてとても愛おしくなる。
5つの物語の共通点はインターネット上にある1つの掲示板のスレッドで、若い女性が立てたらしい「手が好きなので、いま起きている人の手の画像をください!」という内容のもの。
5人のうち4人の主人公はそのスレッドを偶然見つけ、ほんの一時軽く関わる。そして残りの1人は…という少しの謎も楽しめるつくり。
みんなスレッドとの関わり方はほんの浅いものなのに、不思議とその存在が心に残る。偶然見つけてふと立ち寄って書き込みをするのだけど、その内容が主人公たちの悩みやコンプレックスにとても沿っているところが興味深い。
普段悩んでいることや考えていることが無意識に現れる瞬間の小さな恐ろしさのようなものを感じた。
私はとくに「小鳥の爪先」と「マリアを愛する」が好きだった。主人公たちのコンプレックスを理解出来るせいかもしれない。
ネット上に居場所を求める人間が数多いる今の世の中。不健全だと責める人もいるかも知れないけれど、それによってどうにかバランスを保てている人も確かに存在する。
そこに血の通ったような温かさを感じることも、きっと不可能ではないのだと思う。
- 感想投稿日 : 2018年1月8日
- 読了日 : 2018年1月8日
- 本棚登録日 : 2018年1月8日
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