静かなる気骨の人、吉村昭の穏やかな声が聞こえるエッセイ集。(親本は平成17年刊、平成20年文庫化)
ⅰ 日々を暮らす
ⅱ 筆を執る
ⅲ 人と触れ合う
ⅳ 旅に遊ぶ
ⅴ 時を歴る
著者は、史伝小説の作者である。小説の中で自分を出すということが無い分、エッセイでは、人柄が溢れている。「資料の処分」は、死後のことを考え、不要となった資料を処分する話であるが、氏の考えは考えとして、もったいなく思った。小説家にとって、小説を書いてしまえば、無用の長物というのは分かるが、何が元ネタなのか、追跡が可能な方が後世のためだと思う。(とはいえ、一個人にそこまで求める事は酷であるが)
「小説に書けない史料」の話も面白い。江戸時代の飯田藩で、初めて火炙りを行った時の史料を巡るエピソードである。罪人を固定した縄が切れて、失敗しやり直したお話であるが、衆人環視のなか「大いに体裁悪かりしと」と記録を綴った役人の心境はいかばかりであったろうか。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
エッセイ
- 感想投稿日 : 2015年5月19日
- 読了日 : 2015年5月8日
- 本棚登録日 : 2015年5月6日
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